RACI は、プロジェクトの役割分担を明確にし、各タスクの責任者をチーム全員が把握できるようにするコンセプトの頭文字をとった略語です。「RACI」という言葉を初めて聞く方も、次回のプロジェクトで RACI チャートの作成を検討している方も、このガイドを読めば、RACI チャートを作成して使用する方法のすべてをマスターできます。
更新: この記事は、RACI チャートの必要性と作り方に関する詳しい記述を含めて 2023年 3月に改訂されました。
今担当しているプロジェクトについて考えてみてください。各タスク、各マイルストーン、各成果物に対して、誰が何をいつまでに何を行っているのか、特定できますか?もしできない場合には、RACI チャートの出番かもしれません。
この記事では、RACI とは何か、どのようなメリットやデメリットがあるのか、例も挙げながらまとめます。
RACI チャートテンプレートを作成RACI チャート (RACI 図) とは、プロジェクト内すべてのタスク、マイルストーン、成果物における役割と責任をメンバーに振り分けた表のことです。日本語では「責任分担表」と呼ばれる場合もあります。「RACI」の読み方は「レイシー」です。
この 4 文字を順番に適用することで、責任の所在 (責任範囲) を明確にし、チームの混乱を減らせます。
RACI は、「R: Responsible (実行責任者)」「A: Accountable (説明責任者)」「C: Consulted (協業先、相談先)」「I: Informed (報告先)」の 4 つの単語の頭文字を取って名付けられたビジネス用語です。この 4 文字を順番に適用することで、責任の所在 (責任範囲) を明確にし、チームの混乱を減らせます。RACIチャートは、個々のタスクで実行責任者、説明責任者などを視覚化できる方法として便利に活用可能です。
前項で紹介した要素には、それぞれ役割があります。ひとつひとつ詳しく見ていきましょう。
実行者は、仕事の責任を直接担います。質問や報告を誰にすればよいのかわかるように、実行責任者は、各タスクにつき必ず 1 名のみに限定する必要があります。タスクの実行責任者が 2 名以上になると、責任の所在があいまいになり、混乱が生じるおそれがあるからです。そういった状況を避けるため、関係者を追加する場合には実行者ではなく、RACI の他の役割にコラボレーター (支援者) として追加しましょう。
説明責任者は、タスクの完了を統括し、経営陣や取引先などのプロジェクトの関係者に対して進捗や結果などを説明する役割です。実際にタスクの作業を行うメンバーとは異なる可能性があります。
説明責任者を割り当てる方法は、2 通りあります。
説明責任者がプロジェクトマネージャーを務めている場合。(実行責任者を務めているケースもありますが、その場合にはタスクのワークフローにおいて、2 つの異なる役割を兼任することになります)。こういった場合には、仕事をすべて完了させることが説明責任者の責務となります。
説明責任者が、仕事の正式な完了を承認する管理職のリーダーや役員である場合。実行責任者と同様に、説明責任者も必ず 1 人のみに限定する必要があります。
協業先 (相談先、協議先) は、作業や成果物についてメンバーから相談を受け、サポートを行う役割です。仕事の納品前に、その評価と承認を担当する関係者 (1 人または複数名) のことを指します。
協議先には作業等の遂行に必要な専門知識や経験がある人を選出する必要があります。タスクの実行や関係者への説明について責任は持たず、知識を活かして実行内容の支援を行います。協業先は、各タスク、プロジェクトのマイルストーン、成果物ごとに複数名 (または複数社) 置かれる場合があります。
報告先とは、作業や成果物の結果に対して報告を受ける役割です。協議先との兼任や、データを管理している管理部門、総務部門、経理部門などから担当者が選ばれるケースが一般的です。
基本的には実行責任者から報告を受けるだけの役割ですが、受けつけた内容に問題をみつけたときには説明責任者へ連絡を行います。
プロジェクト中には、タスクの遅延や修正といったトラブル、変更が生じる場合があります。トラブルが発生しても RACI チャートで責任の範囲を明確にしていると、定められていた役割によって迅速な対処が可能です。
実際の業務では責任の所在がはっきりしていないケースもあり、問題発生時に対応できる人がすぐ見つからないこともあります。そのためトラブルなどに備えるには、あらかじめ責任者を決めておく必要があります。
役割はメンバーにはじめから伝えておく必要もあるので、RACI チャートを使用して効率よく責任の範囲を伝えることが大切です。
電子書籍をダウンロード: つながりの明確化: リモートマネージャー向けワークマネジメントガイドRACI チャートはどのような場合に作成すればいいのでしょうか?具体的に 2 例ご紹介します。
RACI チャートが特に役立つのは、意思決定者や内容領域専門家が多数参加する複雑なプロジェクトを管理する場合です。RACI チャートを使えば、誤った意思決定を防ぎ、承認プロセスにおいて障害を回避することができます。これにより、プロジェクト全体の成功を阻む要素を取り除きます。
RACI チャートは、PERT 図とは異なり、各関係者がプロジェクト期間中に複数の役割を兼任する場合に、特に活躍します。たとえば、あるタスクで成果物に関する責任を負いながらも、別のタスクでは報告先を務める関係者がいるとします。RACI チャートがあれば、こういった詳細な事柄が明確になり、誰が何を担当しているのか参加者全員が認識を共有できます。
RACI チャートは、表に各タスクとメンバーを書き出してからメンバーに役割を割り振りして、チーム内で公開します。個人の知識や能力などから、適した役割に選定することが重要です。以下の手順で作成しましょう。
タスクとメンバーを書き出す
RACI を振り分ける
メンバーに共有する
では、それぞれのステップを詳しく見ていきます。
RACI チャートを作る際には、最初にタスクとメンバーを全て書き出す必要があります。プロジェクト内のタスクを全て書き出したら、作成している表の一番左の列 (縦軸) に各タスク名を全て記入していきます。それから一番上の行 (横軸) にチームメンバーの名前を記入していくと、チャートの枠作りは完了です。
RACI をタスクごとに分類してメンバーに割り振ります。チームメンバーが横軸に書き出されていますが、RACI に全員を割り振りする必要はないため、選ばれなかった人の欄は空欄のままです。全体を統括する説明責任者を先に選出し、残りのメンバーを決めるとよいでしょう。
メンバーに役を振ったあとは、その完成した RACI チャートを公開して各々の役割を理解してもらいます。チャートはオフィス内に貼りだしたり、プロジェクト管理ツール内で共有したりして、常に誰でも確認できる状態を維持することが大切です。
Asana のプロジェクトマネジメント機能を試すチームメンバーの中に、これらの役割をできないと主張する人がいた場合は、ほかの人にその役割を引き受けてもらう必要があります。またはサポートを行ってくれる協議先の数を増やすなどの対策を行い、プロジェクトを進行させます。
RACI チャートを作成すべきか否かを検討する際には、以下の点を考慮しましょう。RACI チャートはプロジェクトにおける責務を特定するために役立つフレームワークですが、プロジェクトのフェーズにより、少々使いにくくなる場合もあります。チームの仕事を管理するため RACI チャートを作成するメリットとデメリットを以下に紹介します。
プロジェクトにおける役割と責任を明確化することで、チームが機敏に動けるようになる
トラブルが生じる前やトラブル発生後、すぐに時間をかけず素早い対処が可能となる
「誰が何の作業を行っているのか」をめぐる混乱が減る
2 人のメンバーが重複した作業を行うことがなくなる
チームのコラボレーションが向上する
その他にも、意思決定プロセスが複数のタスクにまたがる場合には、RACI チャートの効果がとりわけ明らかになります。たとえば、あるタスクまたはマイルストーンに報告先として参加する関係者が、別の場面では実行責任者または協業先を務める場合があります。こういった複雑な体制も、RACI チャートで仕事を管理すれば、明確に定義できます。
一方、とくに関係者の多い複雑なプロジェクトになるほど、責任の所在が分かりやすい RACI チャートの使用が適しています。そのほかにも RACI チャートをプロジェクト外のメンバーとも共有することで、スケジュールを明確化し、人員を確保することにもつながります。
全体の連携を可視化できない: RACI のモデリングは、プロジェクトレベルで仕事を定義するのではなく、プロジェクトの詳細なレベルを対象とします。1 つのタスクにおける協業先が誰なのかを知ることは確かに役に立ちますが、それだけではプロジェクト全体における各種関係者の連携を可視化することはできません。
情報量が過剰になることがある: 個々のタスクや役割をすべて記載しようとすると、RACI チャートの情報量が過剰になる場合があるので注意が必要です。
ひとりに過大な責任がかかる可能性がある: RACI チャートでは各タスクで分担を振り分けるため、タスクごとの管理に役立ちます。ただし RACI の 4 つの役割を定めることしかできず、タスクの詳細を記載することまではできません。業務範囲を別途決めておかないと、ひとりに過大な責任がかかることも考えられます。
リアルタイムに把握することが困難: RACI チャートはプロジェクトの要件定義の段階で作成するので、あとから変更があった場合に変更後のタスクとズレが生じることがあります。そのため、プロジェクトのワークフローにおける各タスクの進捗について、リアルタイムで明確に把握することが困難な場合があります。
RACI チャートは、プロジェクトのニーズにリアルタイムで適応するものではないため、その効果には限界があります。プロジェクトレベルで明確な要件を確立し、混乱を解消するためには、プロジェクト管理ツールが必要です。
プロジェクト管理ソフトウェアを使えば、すべてのタスクに担当者、つまり実行責任者を割り当てられます。そして、仕事をプロジェクトレベルで俯瞰できるため、説明責任者や報告先がメールやステータスミーティングでそれを確認する必要がなくなります。さらに、協業先の承認が必要な事項についても、その評価や承認を 1 つの場所ですべて追跡できます。それにより、RACIチーム全員が、進行中のすべての仕事に関し、信頼できる唯一の情報源を共有できます。
仕事の現場から離れた場所で RACI チャートを管理する在り方とは異なり、プロジェクト管理ツールを使えば、トピックや担当者のほか、タスク期日、重要度などの大事な情報も 1 つの場所で記録できます。それにより、誰が何をいつまでに行っているのか、プロジェクトチーム全員に対し可視化されるのです。また、RACI チャートを管理し、更新する責任を 1 人のメンバーに任せる必要はありません。プロジェクト管理ツールでは、リアルタイムで更新が行われるので、承認プロセスの正確な進捗状況をいつでも確認できます。
タイムラインテンプレートを作成RACI チャートの例を挙げてみます。たとえば、自社のウェブサイトのトップページ更新を行う場合、次のプロジェクト関係者が想定できるでしょう。
コピーライター
デザイナー
ウェブサイト責任者
ウェブデベロッパー
この例では、5 つのタスクと成果物を含む RACI チャートを作成します。
トップページの CTA (バナーやボタンなど) を更新する
トップページのお客様体験談を更新する
ウェブサイトのデザインをリニューアルする
トップページの読み込み速度を改善する
トップページのデザインを更新する
トップページの CTA を更新する
実行責任者: コピーライター
説明責任者: ウェブデベロッパー
協業先: ウェブサイト責任者
報告先: デザイナー
トップページのお客様体験談を更新する
実行責任者: コピーライター
説明責任者: ウェブデベロッパー
協業先: ウェブサイト責任者
報告先: デザイナー
トップページの動画をリニューアルする
実行責任者: デザイナー
説明責任者: ウェブデベロッパー
協業先: ウェブサイト責任者
報告先: コピーライター
トップページの読み込み速度を改善する
実行責任者 ウェブデベロッパー
説明責任者: ウェブデベロッパー
協業先: ウェブサイト責任者
報告先: コピーライター、デザイナー
トップページのデザインを更新する
実行責任者: デザイナー
説明責任者: ウェブデベロッパー
協業先: ウェブサイト責任者
報告先: コピーライター
管理できる範囲が限定的になるなどのデメリットもある RACI チャートですが、その不足している機能を補うために作られた派生形チャートも存在します。
RASIC は RACI に S (サポート) の役割を追加したものです。サポートとは、実行責任者の下で実際にタスクを行ったり、業務上必要な資材を準備したりするサポート業務を行う役割です。
RACI-VS は、RACI に V (検証者) と S (承認者) を加えたものです。検証者は、プロジェクトの成果物が定めていた基準に達していることをチェックする役割です。承認者が、検証者の検証結果を見て判断したのちに成果や結果を次のタスクにまわします。
RACI に O (部外者) を追加したものが CAIRO です。部外者とはタスクには関係のないリソースのことです。部外者は会議への参加をなくすなど明確に区別することで業務を効率化することができる場合もあります。
RACI とは何か、RACI チャート (RACI 図) の基礎知識について解説しました。
期日通りに成果物を納品するためには、チームの役割と責任を明確化することが大きな成功要因となります。関係者のさまざまな役割が複雑に絡み合っている場合にも、RACI チャートで追跡すれば、簡単に明確化できます。ただし、チャートはひとつのタスク管理には有用でも、プロジェクト全体を把握するには不十分なため、プロジェクト管理ツールとの併用がおすすめです。
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