プロジェクトとは、いわば企業の成功を築くブロックのようなもの。このプロジェクトを円滑かつ効率的に運営するために、会社が頼りにするのがプロジェクト管理です。
複数のプロジェクトが同時に進行している大企業では、プロジェクト管理を、「企業プロジェクト管理 (Enterprise Project Management: EPM)」へとランクアップするという手段があります。
企業プロジェクト管理の担当者は、様々な部門を横断して同時進行する多くのプロジェクトが会社の期待事項や目標に一致するように、全体を統括する役割を担います。
戦略的な見地からは、この手法を実施することで、利益と生産性の向上、プロジェクト管理の改善といった様々なリターンが見込めます。
EPM を実践に移すことは一大事業です。そこで、このプロセスをよりよく理解できるよう、このガイド記事では EPM の仕組み、メリット、EPM がもたらす様々なプロジェクト管理フェーズへの影響、チームのコラボレーションを向上する EPM の導入方法について解説します。
企業プロジェクト管理とは、全社規模で複数のプロジェクト管理を行う手法です。これには、会社全体でプロジェクト管理を合理化する基本プロセスを設定することが必要です。
EPM の目的は、会社の目標を進行中のプロジェクトと結びつけて、会社のリソースを適切なタイミングで適切な部署へ投入できるようにすることです。
また、プロジェクト間の互いに依存しあう要素を管理して、プロジェクトが期限通りに予算内で完了するように舵取りすることもその目的です。
会社の階層やチームの構造に関わらず、企業プロジェクトマネジメントオフィス (EPMO) は、戦略計画の階層に設ける必要があります。EPM を統括するのは企業プロジェクト管理の担当者や、納品担当マネージャーになる場合が多いでしょう。EPMO は COO (最高執行責任者) や CPO (最高計画責任者) をはじめ、最高経営幹部の直属になります。
EPMO には、プロジェクトのポートフォリオ管理に加え、次のような役割があります。
プロジェクトマネージャーへの指導やアドバイスを行う
各プロジェクトが事業の全体目標に一致するよう管理する
プロジェクマネジメントオフィス (PMO) の業務を統括し、調整する
プロジェクトの問題を解決または軽減する
定期的にプロジェクトのレビューを行う
プロジェクト管理チームが使用するガイドラインおよびベストプラクティスを作成する
基本的に、EPM の目的は、プロジェクト管理の品質と効果の改善を全社規模で行うこと、およびプロジェクトによって会社に価値が確実にもたらされるようにすることです。
記事: 戦略プランニングは初めてですか?ここから始めましょう。プロジェクトマネジメント協会によると、EPM モデルは 7 つの要素で構成されています。この要素には、従来のプロジェクト管理から派生し、全社レベルで適用されるようになったもののほかに、EPMO 特有のプロセスもあります。
リスク分析とは、さまざまなリスクがプロジェクトにもたらす影響を質と量の両面から把握し、評価するもので、これに基づきリスクを軽減するための適切な手段を講じます。
リスク分析は、プロジェクトのポートフォリオと会社に関する詳しい知識と経験を要するため、複雑なプロセスになる場合があります。そこで、リスク分析を実施しやすくするために、次のような EPM の方針を採用することができます。
企業プロジェクト管理の担当者が、プロジェクトマネージャーに各リスク軽減プランの担当を割り当てる。
予想されるリスク、現在のリスク、コンティンジェンシー予備の測定基準を定める。
コンティンジェンシープラン (緊急時対応計画) に基づくリスク軽減を加味したプロジェクトの見積もり手法を用いる。
EPM プロセスにリスク分析を組み込むことによって、経営陣は、より明確な状況把握に基づき、プロジェクトのリターンに照らしてどれだけのリスクが許容されるかを判断できます。
記事: プロジェクトでありがちな 7 つのリスクとその防止策プロジェクトの見積もりは、プロジェクト管理の軸となる要素で、プロジェクトのコスト、リソース、期間の見積もりが含まれます。EPM では、プロジェクトマネージャーが体系的に見積もりを行えるよう、基準を定めます。たとえば、EPMO が定義するプロジェクトの標準的な納品ライフサイクルや、プロジェクトマネージャーが参照する過去プロジェクトの例をまとめた資料などがこれに当たります。
EPMO は、三点見積もりやデルファイ法などの見積もり戦略について、PMO へのトレーニングを行う場合もあります。
定期的にプロジェクトを確認して、現在のプロセスの進捗と潜在リスクを把握します。EPMO が実施するレビューは、プロジェクトのコミットメント内容のほか、開始、進捗、完了時点に行う 4 つが考えられます。これらのレビューの目的は、プロジェクトの基本事項、ステータス、問題点を確認すること、およびリスク軽減計画の見直しが必要かどうかの判断です。
プロジェクトレビューの方法の一つが、納品、クライアント、チーム、予算など、プロジェクトの様々な要素の重要度を色別 (赤 / 黄色 / 緑)で表すことです。これによって、最も緊急を要する問題を経営会議で取り上げ、対処することができます。
記事: 効果的なプロジェクトステータスレポートの書き方十分なトレーニングやリソースがないプロジェクト管理は、ストレスの大きな仕事になります。EPMO はプロジェクト管理業務に必要な技術的スキルやマネジメントスキルをプロジェクトマネージャーが習得できるようにトレーニングを行い、PMO をサポートします。社内トレーニングのほか、外部のプロジェクト管理の専門家を招いて行う場合もあります。
さらに、EPMO は、プロジェクトマネージャーのメンターとして、プロジェクト計画の策定、プロジェクトの実施、意思決定、問題解決といった場面でもサポートを行います。
プロジェクト管理におけるエスカレーションとは、問題の緊急度を上げることを意味します。エスカレーションされた問題は、場合によっては経営陣による介入が必要になります。問題管理システムをより円滑にするため、EPMO は、全部門で運用するエスカレーションの共通ルールとプロセスの策定を行います。
EPMO は、エスカレーションされた問題のリストを経営会議で検討し、これらの問題に共通する原因を特定して、部門やシステム、あるいは組織全体で行うべき変更を提案します。
記事: インシデント管理: プランの立て方 (+7 件のベストプラクティス)プロジェクトのライフサイクルでは、時間も重要な要素になります。確実な時間管理システムを導入すれば、プロジェクトのどの部分に時間が使われているかを正確に測定できます。EPMO は各チームのタイムシートのデータをもとに、今後のプロジェクト計画や見積もりのガイドラインを作成します。
情報システムは EPM の土台です。企業向けのパワフルなプロジェクト管理ソフトウェアを活用することで、プロジェクトの計画、報告、管理にかかる時間を大きく短縮できる可能性があります。
たとえば、Asana のレポートツールは、プロジェクトの進捗をリアルタイムで把握でき、複数のプロジェクトチームや部門から詳しいデータを集めて共有するといったフレキシブルな機能も備えています。
収集したプロジェクトデータを使って、次の 4 タイプのレポートを作成できます。
リソースの利用率
リソースの利用状況
プロジェクトの進捗
プロジェクトのアクティビティ
これらのレポートの分析情報に基づき、より高いパフォーマンスの発揮に向けたチーム運営が可能になります。
記事: チームに適したプロジェクト管理ソフトウェアを選ぶ方法現在、チームがプロジェクト管理や進捗と結果の把握に手間取っているなら、EPM が解決策になるかもしれません。
EPM のシステムを実践するには、まず会社の組織構造をそれに合わせて整える必要があり、それにより会社に様々な変化が起きる可能性があります。EPM を導入する前に、経営陣は会社の現行の組織を分析し、運用の見地から障害になりそうなポイントを特定した上で、長期的に見て EPM が戦略として有効かどうかを判断する必要があります。
会社として EPM を導入する準備が整ったら、次のステップに従って実行に移しましょう。
最初のステップは、現在のプロセスの見直しと問題の洗い出しによって、EPM をどう活用するかを決める作業です。次のような問いについて考えてみましょう。
EPMO の役割とは何か?
EPM の導入に必要なリソースは何か?
EPM は会社の戦略目標にどう貢献するか?
EPM 導入による新しい業務を担当するのは誰か?
こうした問いに答えることで、EPM プロセスの導入を成功に導くことができます。
次の段階では、関係者や経営陣に計画を伝えます。EPM の導入によるメリットと、実施方法について説明しましょう。
EPM の運用を開始するには、実施計画のための必要事項とフェーズの一覧を作成する必要があります。このリストには、関係者の同意に基づいて現在のチーム、テクノロジー、トレーニングに加えられる変更の詳細をまとめます。導入は時間をかけて段階的に行うか、または日時を設定して行うこともできます。
記事: チェンジマネジメントとは?成功するチェンジマネジメントプロセスを構築する 6 つのステップEPM の導入の進捗について定期的なレビューを行います。新しい EPMO の業務状況、他の PMO との兼ね合いなどを確認して、移行を継続しながら潜在的な課題をピックアップしていきます。また、この段階で問題があれば経営陣に報告し、必要に応じて導入プランの調整を行います。
チーム編成が変更されるため、人事部門でも新しい EPM モデルに沿ってプロセスの調整が必要になる場合があります。また、EPMO チームのメンバーも、設備、EPM ソフトウェア、関連トレーニングといった追加のリソースが必要となるかもしれません。
EPM へのアプローチは会社のリソース、プロセス、目標に応じてそれぞれに合った形で調整する必要があります。ここでは、現行のプロジェクト管理プロセスに EPM を統合する方法をいくつかご紹介します。
これは、プロジェクトのアイデアを評価し、組織全体の目標にメリットをもたらすアイデアを優先するプロセスです。プロジェクトは承認を受け、組織の成功に貢献するものでなくてはなりません。そうでなければ会社のリソースの無駄になってしまいます。
プロジェクトを開始する前に、各ステージを細かく設定した明確なプロジェクト計画を立てることが重要です。期間が長く、複数の部門が連携する複雑なプロジェクトの場合、この作業が特に重要になります。計画を立てる際は、ガントチャートやかんばんボードを使ってタスクを分解し、スケジュールを決めるのがおすすめです。EPMO は、プロジェクト計画と予算の予測を立てるための基準を策定する必要があります。
記事: より効果的なプロジェクト計画をわずか 7 つのステップで作成選択したプロジェクトのすべてが成功し、期待通りの結果を出せるとは限りません。企業プロジェクト管理の担当者にとって、期待されるリターンを出せそうなプロジェクトと、早期に中止するべき採算が取れないプロジェクトとを判断できることが重要です。さらに、EPMO は、成功、失敗に関わらず、プロジェクトの出口戦略を立てる必要があります。
プロジェクトの監督とは、プロジェクトのデータを収集して、進捗を把握するプロセスです。ここでの作業には、コストの監視、作業分解構成図を作成して成果物を視覚化すること、プロジェクトのパフォーマンスを改善する戦略を策定することが含まれます。
EPM を活用してプロジェクト管理の基本プロセスを設定することによって、今後のプロジェクトのライフサイクルが合理化され、その結果、各 PMO にも、会社全体にもメリットがあります。
企業プロジェクト管理と従来のプロジェクト管理が果たす機能には重複する部分もありますが、目的とスコープが異なります。以下では、この 2 つのシステムをより詳細に比較していきます。
プロジェクトマネジメント協会 (PMI) の Paul Dinsmore 氏によれば、プロジェクト管理の要は、プロジェクトを「効果的かつ効率的に」完了するにはどうするか、という問題です。
PMO の機能: プロジェクトマネジメントオフィス (PMO) は、プロジェクトの要求事項を満たすようにプロジェクトを計画、管理、実行する役目を担いますが、必ずしも会社全体の目標を注視しているわけではありません。PMO は、戦術および運用レベルで機能しており、EPMO の指揮下にあります。
プロジェクトマネージャーに要求されること: PMO で働くプロジェクトマネージャーは、指導力、コミュニケーション、問題解決のスキルに優れていることが望まれます。また、プロジェクトロードマップの作成、プランニング、タスク管理に習熟している必要があります。さらに、アジャイル、スクラム、ウォーターフォールといった様々なマネジメント方式にも通じていることが要求されます。
EPM は、Dinsmore 氏によれば、「複数のプロジェクトが進行する変化の著しい環境において、よりフレキシブルで対応力に優れ、その結果高い利益がもたらされる」ように事業を導くことを主眼に置いています。
EPMO の機能: EPMO は、PMO と同様の責務に加え、プロジェクトポートフォリオを全社レベルの目標に一致させるという役目を担っています。さらに、EPMO は 会社の戦略に関わる機能を果たします。
企業プロジェクトマネージャーに要求されること: EPMO で働く企業プロジェクトマネージャーは、隅々まで目が届き、様々なプロジェクトの依存関係のバランスをとり、会社や業界についてよく理解していることが望まれます。この職務では、他にも技術的なスキルに関する特別なトレーニングが必要になる場合もあります。
違いはあっても、PMO と EPMO が連携することで、会社全体で進行している様々なプロジェクトをより明確に可視化できます。
EPM が会社にもたらす最大のメリットは、現行のプロジェクト管理を大きく改善して、より会社の戦略目標に一致したものにできる点です。
では、EPM がチームにもたらすメリットを細かく見ていきましょう。
EPMO はプロジェクトに必要なリソースが確保されるよう、リソース配分を行います。また、予算配分の低いプロジェクトで潜在力のあるものを特定してそこに注力する一方、採算のとれないプロジェクトを見つけて、損失を減らすために必要な変更を提案します。
職務の範囲を超える問題が起きた場合は、EPMO に支援を求めることができます。EPMO は、問題の解決方法についての指針を示し、必要な場合は経営陣の介入を依頼します。また、チームメンバーの仕事上の成長をサポートするアドバイスやトレーニングも行います。
記事: 成功するために欠かせない 25 のプロジェクト管理スキル多くのチームは 1 週間の業務時間の 30 % 以上もの時間を重複した仕事に費やしていますが、EPM はこの問題の解消にも役立ちます。チームの時間管理データを分析してプロジェクトワークフローを合理化する方法を見つけることで、効率の改善と、時間の適切な活用が可能になります。
EPM の機能には、プロジェクトの報告、リスク管理、プロジェクトの一元化、タスク管理に関する一貫した基準を確立することも含まれます。これらの指針に従うことで、プロジェクトの調整や EPMO への報告の際に混乱を防ぐことができます。
EPM の導入は、組織の再編を伴う場合もあるため、会社にとって大きな変革ですが、長期的に見れば、全社的なプロジェクト管理の改善につながります。
新しいプロジェクト管理プロセスを定義する際には、プロジェクト管理ソフトウェアなどの EPM に役立つツールを活用することで、プロジェクト計画や報告をより円滑に行えます。
全社レベルのプロジェクト管理は、一筋縄ではいきません。Asana のガイド記事で、複数のプロジェクト管理を成功させる 9 つの戦略をお読みください。
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