企業目標を達成するためには、目標設定そのものだけでなく、そこにいたるまでのプロセスを管理することが不可欠です。そこで重要になるのが、KPI (重要業績評価指標) と呼ばれる指標です。この記事では、KPI の意味と設定するメリット、効果的な設定方法を例を挙げながら解説します。
更新: この記事は KPI を効果的に設定した成功事例に関する記述を含めて、2024年 9月に改訂されました。
KPI とは、目標達成プロセスにおいてその達成度を追跡するために設定する指標のことを言います。KPI を正しく使用すれば、戦略目標の実現に向けた進捗状況をしっかりと把握できるわけです。
この記事では、そもそも KPI とは何か、その意味と設定方法をご紹介します。KPI 用の重要指標を特定する方法と、KPI とよく一緒に聞かれる KGI や OKR との相違点も解説するので、その違いも把握しましょう。
KPI とは、チームや個人が目標達成に向けて適切にプロセスを実行しているかどうかを定量的に評価するための指標です。
つまり KPI とは簡単に言うと「最終的な目標実現までの道に設置された中間目標数値」。この KPI は、組織のトップ上層部から下層部まであらゆる場で使用されます。追跡したい指標により、組織全体の KPI やチーム別の KPI、そして個人用の KPI が設けられます。KPI を設定するときは、具体的かつ測定可能な要件にすることが重要です。
KPI は、Key Performance Indicator の頭文字をとった略称です。KPI の日本語訳は「重要業績評価指標」です。KPI の読み方は「ケーピーアイ」です。
KPI と一緒に耳にすることが多いのが、KGI ではないでしょうか。KGI は Key Goal Indicator の頭文字をとったビジネス用語で、日本語では重要目標達成指標と呼ばれます。KGI は最終目標をどのように測定するのかを示す指標です。つまり、何をもって「目標達成」とするのか、それを明確にしたものが KGI となります。
KPI の例: 新規顧客獲得数 100 件、新規問い合わせ件数 1000 件
KGI の例: 売上目標 2 億円
KGI は組織が目指す最終目標です。この目標を達成するために、達成プロセス中に “中間目標” を設けます。上記の「新規顧客獲得数 100 件」や「新規問い合わせ件数 1000 件」がそれにあたりますが、これが KPI です。KGI を設定してから KPI を設けると、目標達成プロセスを効率的に管理することができます。
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OKR (目標と主要な結果) は「Objectives and key results」の略で「[主要な結果] に基づき測定される [目標] を達成する」という形式で表されるビジネス指標です。すなわち、ここでいう「目標」は達成目標を指し、「主要な結果」はその目標に向けた進捗状況を指します。OKR は目標を包括的に考えるために効果的な手法です。
OKR の内の KR (主要な結果) に最も類似するのが KPI です。ただ、KR は目標の測定対象が何であるかにより、定性的な KR と定量的な KR の双方があり得ます。それに対し、KPI は常に数値化が必要な点で異なります。また、KPI が長期にわたり業績を測定するために用いられる一方、OKR はシンプルかつ短期的目標設定時に用いられることが多いです。
記事: 目標と主要な結果 (OKR) とは?KPI と OKR の違いがさらにはっきりとするように、実際に両者の例を見てみましょう。
KPI の例: 2023年度に NPS (ネットプロモータースコア) を 2 ポイント増加させる。
OKR の例:
目標: 顧客満足度とロイヤリティを高めるために、お客様に驚きと感動を提供する。
主要な結果: SNS やオンラインイベントを通じてクチコミを発生させる。
主要な結果: 顧客解約率を月 2% 未満にまで引き下げる。
主要な結果: 2021年度に NPS (ネットプロモータースコア) を 2 ポイント増加させる。
目標と主な結果 (OKR) を導入して目標設定を改善するための無料ガイド。適切な目標を設定し、会社全体で導入する方法を解説します。
ビジネス評価指標とは、具体的なビジネス目標に向けた進捗を定性的に測定するための手法です。KPI を設定した後にこのビジネス評価指標を用いれば、最終目標に向けてプロセスが順調に進んでいるか否かを追跡することができます。
KPI の例: 第 2 四半期にウェブサイトの訪問者数を 25,000 人増やす。
ビジネス評価指標の例: ウェブサイトのページ別訪問数 (ユニークページビュー)。
CSF もまた、KPI と混同されやすいビジネス用語です。CSF (Critical Success Factor) の頭文字をとった略語で、日本語では重要成功要因と呼ばれます。これは、戦略的目標を果たすために組織が設定する全体目標 (全体的戦略目標) のことを指します。
CSF とほぼ同義で KFS (Key Factor for Success) や KSF (Key Success Factor) と呼ばれることもあります。
KPI は前述のとおり、KGI やビジネス目標達成へ向けた “達成度合い” を測る指標ですが、CSF は最終的な目標に到達するために達成すべき事柄を表します。また、CSF はあくまで目標なので、具体的内容が含まれているとは限りません。一方の KPI は測定可能な定量的指標です。この点が CSF とは大きく異なります。
KPI の例: 自社公式インスタグラムのフォロワー数 1 万人に到達する。
CSF の例: ブランド認知度を高める。
KPI には大きく分けて 2 つのタイプが存在します。それが、先行指標と遅行指標です。
先行指標: 先にあらわれ、遅行指標につながる数値
遅行指標: あとから結果としてついてくる数値
先述のとおり、KPI は最終的に KGI につながる指標ですが、KGI により近い KPI は遅行指標でなければならないので注意が必要です。
ブログマーケティングプロジェクトで KPI 設定をする例を考えてみましょう。KPI には次のような項目が挙げられます。
投稿 1 件あたりの関連キーワード数
各投稿における外部サイトへのリンク数
外部サイトから自身の投稿へのリンク数
ブログ記事投稿前に設定できる上記のような KPI が、先行指標です。この先行指標である KPI が達成されれば、成功への可能性が高まります。一方で、次のような KPI も設定することができるでしょう。
検索エンジンでのランキング
各投稿へのトラフィック
コンバージョン (製品、サービスを購入するユーザー数)
こういった KPI は、記事投稿後に得られる数値なので、遅行指標です。遅れてついてくる数値なので、結果指標とも呼ばれています。
KPI を設ける目的は、チームの達成目標とその期限に加え、その成果を測定する方法を明確に描き出すことです。では、KPI の重要性とは何でしょうか?効果的に設定すると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?適切に設定された KPI には、次のようなことがらを可能にします。
戦略目標の達成を促進する
リソース管理の意思決定材料となる
測定可能である
管理可能で影響を及ぼし得る対象を追跡する
指標を戦略目標と結びつける
プロジェクトが会社目標にどのように寄与するのか、チーム全員の明確な認識を可能にする
チーム内で共通の指標を用いることで、メンバー全員が同じ認識で目標に向かっていくことができます。チームの足並みをそろえる意味でも KPI は重要だと言えるでしょう。また、定量的な指標であることで評価基準が定まり、客観的かつ公平な評価が行えるようになります。こうした公平な評価はメンバーのモチベーション向上にもつながり、結果的にパフォーマンス向上をもたらす要因となります。
毎日の仕事につながるチーム目標・企業目標は何かを明確にし、パフォーマンス向上を目指しましょう。Asana なら、各指標の達成度や達成状況を一目で把握し、チーム全体でシェアできます。
効果的な目標を設定する方法KPI を使用すると、実現可能な数値目標を設定しやすく、また達成しやすくもなります。KPI を 1 つ設定する場合でも、複数の KPI を作成する場合でも、まずは必ずその KPI の使用により達成したい明確な目標や戦略計画を準備しましょう。KPI を作成後は重要なプロジェクト関係者とその KPI を共有し、全員が進捗状況を追跡できるよう、リアルタイムのアップデート共有を忘れないようにすることも大切です。
ここでは、効果的な KPI を設定する方法を 4 つのステップに分けて詳しく解説します。
KPI を作成する前に、目指す目標を定義する必要があります。効果的な目標設定は、戦略計画を達成する上での主要な成功要因です。調査によると、自社が非常に効果的に目標を設定し、周知できていると回答したナレッジワーカーは、全体のわずか 16% でした。
戦略計画をまだ立てていない場合には策定し、組織の 3 か年目標、5 か年目標を定義しましょう。その上で、その計画を年間目標に小分けしましょう。チームのペースによっては、続けて 1 年ごとの KPI を設定するか、さらに半年ごとまたは四半期ごとの KPI に細分化できます。目標を定めるときは、マインドマップを作成すると効果的です。
記事: 戦略プランニングは初めてですか?ここから始めましょう。ビジネス目標を定義したら、その目標との関連性が高いビジネス評価指標はどれかを判断する必要があります。ビジネス評価指標は、目標を達成できるか否かに直接影響する指標です。
【ヒント】KPI は最終目標に影響する測定手法や指標として、さまざまな選択肢がある可能性もあります。最適な KPI を作成する秘訣は、最も重要な詳細データを記録し、その指標を必ず追跡することです。すべてのタスクやプロジェクトを KPI の対象に含む必要はありません。
何から始めればよいのか定かでない場合には、自社の各部門に関わりが深い指標を洗い出ししてみましょう。以下に部署ごとの具体例をまとめるので、参考にしてみてください。
年間経常収益 (ARR)
売上継続率 (NRR)
売上高純利益率 (NPM)
EBITDA (利払い前税引き前償却前利益)
運転資本
キャッシュフロー
ネットプロモータースコア (NPS)
顧客獲得単価 (CAC)
顧客満足度 (CSAT)
顧客維持率
顧客解約率
有料顧客数
新規ユーザー数
サイクルタイムまたは合計リードタイム
苦情またはバグに関するチケットの件数
売上債権回転日数 (DSO) などの物流指標
社員定着率
従業員満足度
給与競争力 (SCR)
獲得率
競合他社に奪われた契約件数
市場参入度
クオリファイドリード (品質が保証されたリード)
リードのコンバージョン率
SNS フォロワー数
デジタルコンテンツダウンロード数
メルマガのクリック率 (CTR)
シェアオブボイス (SOV)
目指す目標とそれに至るための測定指標の決定が済んだら、KPI を設定します。KPI は数値化でき、具体的で、実行可能であることを忘れないようにしましょう。KPI を設定するときは「SMART (スマート)」の 5 つの要件と照らし合わせることがおすすめです。
SMART は、以下を表す略語です。
Specific (具体的)
Measurable (測定可能)
Achievable (達成可能)
Realistic (現実的)
Time-bound (期限がある)
KPI は、他の目標と同様、設定するだけで後は忘れてよいものではありません。進捗状況を追跡し、プロジェクトの関係者とリアルタイムで共有する方法を必ず定めましょう。KPI を報告する頻度は、チームの仕事の速度によります。進捗が速いプロジェクトなら、全員が常に最新状況を把握できるよう、アップデートを毎週共有することを検討します。より長期の緩やかなペースのプロジェクトであれば、十分な情報量を共有できるようになるまで待てるよう、隔週または月次の報告を検討しましょう。
記事: 効果的なプロジェクトステータスレポートの書き方可能な場合は、仕事をマネジメントする場所と同じ場 (ツール) で進捗を追跡、共有しましょう。そうすることで、それぞれのメンバーの仕事が KPI にどのように寄与し、その結果、会社全体の目標にどのような影響が及んでいるのか、チーム全員が理解できます。
クラウド型ワークマネジメントソフトウェア Asana では、目標管理ソフトウェアを使用し、会社目標をその達成につながる仕事と結びつけています。「ゴール」を使えば、チームメンバーはプロジェクトに優先順位を付け、最も影響度が高い仕事を確実に完了できます。
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KPI とは何か、さらに想像しやすいように、具体例を考えてみましょう。前述した SMART を念頭に置いて、設定します。
ご自身が自社のカスタマーサービスチームのメンバーであると想像してみてください。全社の顧客解約率を減らすために、カスタマーサポートを向上させることがチームの全体目標です。チームにとって重要な指標として、お客様からの問い合わせを解決するまでにかかる平均解決時間があります。チームが問い合わせに対応するまでの時間は 10 時間以内でなければなりません。現在、チームが対応するまでに平均 14 時間かかっています。この目標に向けた進捗を追跡するために効果的かつ SMART の 5 つの要件を満たす KPI は、第 1 四半期末までに平均チケット解決時間を 10 時間以内に短縮することです。
この KPI は、具体的かつ測定可能であり (10 時間以内)、実行可能かつ現実的であり (平均チケット解決時間を 3 か月で 4 時間短縮することがターゲット)、期限が明確です (第 1 四半期末が KPI の達成期限)。
KPI の設定方法で解説したとおり、KPI はたとえ適切に設定しても、正しく管理されなければその効果が発揮されません。それには進捗をリアルタイムで追跡し、見直しや修正が必要なケースがあればアクションを取らなければならないのです。ここでは、KPI を適切に管理し、結果的にパフォーマンスの向上につなげた成功事例をご紹介します。
デジタルアートやエンターテイメント事業を手がけるチームラボは、国内外の多様なプロジェクトを同時に進行させる中で、業務管理の効率化とチーム全体のコラボレーションを強化するためにクラウド型ワークマネジメントプラットフォーム Asana を導入しました。
チームラボが Asana で行った取り組みのひとつが、KPI の管理と追跡です。Asana のゴール機能を使って、チームの KPI 達成状況を可視化できる仕組みを整えました。具体的には、KPI を目標として設定した上で、カスタムフィールドを使ってタスクに KPI への影響度を数値で付加できるように設定。こうすることで、KPI の達成に向けたプロセスを定量的に管理できるようにしたのです。
チームラボでは他にも、OKR 管理やタスク管理でも Asana の機能を活用し、結果としてチーム全体のパフォーマンス改善という成果を上げました。詳しくはチームラボによる Asana 導入事例をご覧ください。
仕事を最大限効率化し、チームの生産性を上げるためには、Asana のプロジェクトマネジメント機能をお試しください。日々の業務と目標をつなげ、「誰が・何を・いつまでに行うのか」を可視化します。
KPI の意味とメリット、KGI や OKR との違い、設定方法を解説しました。KPI 指標は戦略目標と直結し、しかも数値化された指標です。明確な指標であることで、”やるべきこと” が可視化され、PDCA サイクルも回しやすくなります。組織の最終目標へ向かう道標として、効果的な KPI を設定しましょう。
ビジネスシーンにおける目標設定手法には、KPI の他にもさまざまな種類があります。KPI 指標がニーズに合わない場合には、別のフレームワークも試してみましょう。KGI、OKR、SMART な目標、短期目標の策定に関する Asana の記事をお読みください。