プロジェクトが終了し、振り返りのために実施する会議のことを「ポストモーテム会議 (postmortem)」といいます。その主な目的は、プロジェクトを振り返り、今後プロセスを合理化するために変更するとよい点を洗い出すことです。この記事では、そもそもポストモーテムとは何かをはじめに解説し、プロジェクトのポストモーテム会議を開く主なメリットと、うまく進行するためのヒントをご紹介します。
更新: この記事は、ポストモーテムの意味に関するさらに詳しい記述を含めて 2022年 9月に改訂されました。
プロジェクト管理プロセスの醍醐味はなんといっても、プロジェクトそのものを無事完了させることです。そして、ここまでたどりつけたのはチームの協力があってこそ。そこで、次の計画に進む前に、チームの業績をたたえてねぎらい、プロジェクトを振り返る時間を持つことが大切です。
この「振り返り」にうってつけなのが、ポストモーテム会議 (postmortem) です。この記事では、ポストモーテムとは何かを解説し、プロジェクトにおけるポストモーテムの主な特徴について考えます。ポストモーテム会議をうまく進行するために手軽にできる 6 つのコツも紹介するので、今後の参考にしてみてください。
無料のポストモーテムの振り返り用テンプレートポストモーテム (postmortem、事後検証) は、主に SRE (サイト信頼性エンジニアリング) において使用されるビジネス用語で、サービス運用時のシステム障害やデータの損失など、インシデントについてまとめた文書のことをいいます。発生したインシデントについて、そのインパクトや問題解決のために行われたアクション、ユーザーへの影響、根本原因、再発防止策などを記録したドキュメントです。
この文書を作成することで今後のプロセスを合理化し、同じような問題やエラーが発生した場合の障害対応を迅速に遂行することが、ポストモーテムの目的ですが、この「ポストモーテム」という言葉はプロジェクトマネジメントにおいてもよく使われます。
プロジェクトマネジメントではよく聞かれるのが「ポストモーテム会議」です。このポストモーテム会議とは、プロジェクト終了後に実施する “振り返り” 会議のことを指します。この会議は、プロジェクト全体で首尾よく進んだ点や、逆に改善が望まれる点をプロジェクトチームが確認する重要な場です。
プロジェクトのポストモーテム会議は、成功をたたえ、チームのワークフローを振り返り、プロセスを反復して次回に向けての改善点を見いだすことができるよい機会です。
Asana でワークフローの可視化と構築を行うポストモーテム会議の他にも、同様の目的の会議があります。代表的なものは以下のとおりです。
プロジェクトのデブリーフィング: もともとは軍隊用語で、任務完了時の事実確認と状況報告を「デブリーフィング」といいます。
振り返り (レトロスペクティブ): アジャイルプロジェクト管理では、プロジェクトの振り返り (レトロスペクティブ) という言葉がよく使われます。アジャイルの主な目的は継続的改善であるため、スプリント期間の後に、レトロスペクティブ会議が行われるのが一般的です。
プロジェクトのリキャップ (要約): 典型的なリキャップとは、会議の要点を書面にまとめたものです。プロジェクトのリキャップも同様で、プロジェクト全体の重要なポイントを取り上げます。
最終確認会議: 一般的には、プロジェクトの最後に、まとめや整理、後処理を行います。
教訓会議: プロジェクトマネジメント協会では、プロジェクト終了時の会議をこう呼んでいます。スムーズに進んだ点、難航した点、改善すべき点について、プロジェクトリーダーが明確に把握するのに役立つ会議です。
ポストモーテム会議とプレモーテム会議の大きな違いは、会議が行われるタイミングです。プレモーテム会議は、プロジェクトの始動前に行われます。プレモーテム会議は、プロジェクトの失敗につながるあらゆる可能性をチームで洗い出すリスク軽減方法ですが、一方のポストモーテム会議は、プロジェクトの終了後に行われます。プロジェクト中に起こったことを振り返る回顧的な会議です。
リスク管理計画のテンプレートを作成起こりうるリスクを事前に想定して、その影響をできるだけ抑えるための対策を考えておく「リスクヘッジ」に関しては『リスクヘッジとは?意味、進め方、スキル向上のポイントを解説』をご覧ください。
ポストモーテムはプロジェクトマネージャーにとって、プロジェクトのプロセス改善に役立つ多くのアイデアを得られる場となります。ポストモーテムには次のようなメリットがあります。
チーム内のすべてのメンバーが完了したプロジェクトについてそれぞれのレビューやコメント、気付いた点などを共有することで、プロジェクトマネージャーはそれを今後のプロセスの合理化に役立てることができます。これがプロジェクトマネジメントにおいてポストモーテム会議が重要な理由のひとつです。プロジェクトで首尾よく進んだ点を振り返る時間を設けることで、そこから得たフィードバックを次のプロジェクトの計画に生かすことができます。プロジェクトで問題や課題が発生したのであれば、取り組み方を調整するよい機会です。
Asana でプロジェクトを計画するまた、過去のプロジェクトでの反省点を踏まえた対策を取ることで、ミスを防ぎ、リスク軽減にもつながります。類似するプロジェクトが定期的に発生するのであれば、過去のプロジェクトのプロセスをベースにしたテンプレートを作成するとよいでしょう。テンプレートがあれば、プロジェクトチームは、プロジェクト計画に含めるべきアクションアイテムや成果物が何かすぐわかります。
アジャイルプロジェクト管理手法では、レトロスペクティブとイテレーションが重要な柱となっており、アジャイルプロセスではイテレーションが優先されます。首尾よく進んだ点、難航した点を振り返る時間を設けなければ、次のスプリントに向けてプロセスを調整することができません。
記事: より効果的なプロジェクト計画をわずか 7 つのステップで作成プロジェクトのポストモーテム会議の大きなメリットは、プロジェクトでの自分の役割に対するチームメンバーの気づきを、プロジェクトマネージャーが客観的な立場で聞き、振り返る機会を与えてくれることです。
プロジェクトの成功はチームのまとまり具合次第ですので、それぞれの感じたことや体験をチームで話し合える場を作ることが重要です。それぞれが抱える問題点について話し、同じ問題が起こらないよう、次のプロジェクトに備えて一緒に解決策を考える機会なのです。
チームの士気を高める手軽な方法として、チームが成し遂げた成果を振り返る時間を持つことがあげられます。プロジェクトを終えたらすぐに次に取りかかりたいところですが、チームが成し遂げた成果をたたえる時間を持つこともチームの絆を深めるためには大切なことです。
ポストモーテム会議は、プロジェクトの成功のために力を尽くして取り組んだチームメンバーの功績を評価できるまたとない機会です。チームメンバーの功績を評価することは、チームの士気高揚につながります。
士気を高めるためにポストモーテム会議に取り入れるとよい方法は次のとおりです。
プロジェクトの振り返り用テンプレートに、「成功」というセクションを追加しましょう。
各チームメンバーに、プロジェクトに参加した他のチームメンバーにあてた「賞賛の言葉」を少なくとも 1 つ発表してもらいましょう。
会議の前に、成功した点をいくつかまとめておきましょう。
ポストモーテムのプロセスは複雑でなくてもかまいません。ここでは、ポストモーテム会議を成功に導くためのヒントをご紹介します。
ポストモーテムは、プロジェクトでの経験がチームメンバーの記憶に新しいうちに行うのが最も効果的です。適切な時期にポストモーテムを行えるように、プロジェクトの始動時に会議の予定を立てておくといいでしょう。ポストモーテムのプロセスをワークフローに組み込んでおけば、忘れずに実施できます。
ポストモーテムの実施時期は、プロジェクト終了から数日後にするのがよいとされています。これは、プロジェクトが終了した後、チームでの振り返りを行う前に、各自が自分なりの振り返りの時間を持つことができるからです。
プロジェクト終了からポストモーテム会議までの間には、チームメンバーにアンケートに回答してもらい、プロジェクトについてのメンバーの意見や感想を事前に把握しておくといいでしょう。複数のチームメンバーが言及している問題があれば、ポストモーテム会議で重要トピックとして取り上げます。
会議前アンケートの質問例:
今回のプロジェクトでうまくいった点を 3 つ挙げてください。
今回のプロジェクトで、うまくいかなかった点を 3 つ挙げてください。
次のプロジェクトに向けて、改善できる点があれば書いてください。
話し合うべきトピックを把握したら、議題を作成して、会議の前にチームに配布します。
ポストモーテム会議に限らず、議題を会議の前に共有しておくことは、よいことです。前もって最新情報を伝えておけば、チームは重要なトピックを事前に知ることができ、考えをある程度まとめておくことができます。
議題の例:
導入 (2 分半)
感謝表明 (5 分)
首尾よく進んだ点について (5 分)
改善の余地がある点について (5 分)
次のプロジェクトへの提案 (5 分)
まとめ (2 分半)
会議が始まる前に、書記と司会者を決めます。一人二役では会話が中断してしまうため、担当者はなるべく 2 人としましょう。主担当のプロジェクトマネージャーが会議の司会を担当し、他の人が書記を担当することが多いようです。
オンライン形式での会議の場合は、会議の様子を録画しておくと、出席者があとで会議を振り返ることができ、議事録を見直す際の参考にもなります。
実際に会議を開催する際には、会議の進め方について基本的なルールを決めておくことが大切です。司会者は通常、議題の主要トピックに沿って発言を誘導していくのですが、もしも話が弾まない場合どうしたらよいでしょうか?
会話を続け、プロジェクトに関する議論を促していくのが司会者の仕事です。発言を促したいときに、司会者がチームメンバーに尋ねるとよい質問の例を紹介します。
プロジェクト計画で設定されたスケジュールを守るのに苦労していた人はいませんでしたか?思いあたらない場合、あなたにとって障害となったことはありましたか?
設定した期限までにプロジェクトを完了させるのに十分なリソースがあったと思いますか?そう思わない場合、期限を守るために、他にどんなリソースが必要でしたか?
今回の経験を振り返って、もしこのプロジェクトをやり直すとしたら、何を変えますか?
類似するプロジェクトにまた取り組みたいと思いますか?そう思う、または、思わないのはなぜですか?
このプロジェクトは成功したと言えるでしょうか?そう思う、または、思わないのはなぜですか?
このような自由形式の質問から、プロセスの進行中に自分で気づくことがなかったプロジェクトのプロセスの一面が明らかになります。チームからのこのような見解を参考にして、次のプロジェクトに向けてよりよいプロセスを検討することができます。さらに有意義な会議にするためには、ファシリテーターを設けましょう。
無料のポストモーテムの振り返り用テンプレートポストモーテム会議が終わったら、主なポイントをまとめたレポートをチームに配布しましょう。会議中に判明したアクションアイテムを必ず記載し、次のプロジェクトでチームに取り組んでもらいたい事項に関するさしあたっての考えを共有します。
プロジェクトマネジメントにおけるポストモーテム会議について解説しました。そもそもポストモーテムの意味は何なのか、ポストモーテム会議を開くメリットにはどのようなものがあるのかを知り、今後のプロジェクト計画に役立てましょう。
プロジェクトのポストモーテム会議から学びを得たら、次のプロジェクトでは、プロジェクトの計画や、キックオフ会議の開催など、プロジェクトマネジメントに重要なスキルを身につけて、プロジェクトの成功に向けて段取りよく準備を進めましょう。
プロジェクト管理スキルを磨く方法について詳しくご覧になりたい方は、Asana のプロジェクト管理リソースライブラリをお読みください。また、基本的な始末書の書き方についての記事『始末書の書き方をゼロからわかりやすく解説』もご覧いただけます。