この記事では、プロジェクトマネジメントにおける「変更管理」について、その基礎知識を解説します。変更管理とは、プロジェクト関係者にリクエストの確認を依頼し、承認や却下を受ける一連の手順を管理することを指します。複数の業務が連動する大規模なプロジェクト管理をスムーズに運ぶには、欠かせないプロセスです。
更新: この記事は、変更管理のメリットに関するさらに詳しい記述を含めて 2023年 2月に改訂されました。
複数プロジェクトの管理では、状況が複雑化しがちです。業務スケジュールの調整にせよ、目標と結果の追跡にせよ、管理者にとってプロジェクトの大幅な変更に対応するのは実に頭が痛い問題で、できれば避けたいもの。そう思っている人も多いのでは?しかし、効率的な変更管理を導入すれば、プロジェクトの変更リクエストに手間取ることがなくなります。
変更管理は、複数部門のチームメンバーが協力するような大規模な取り組みにおいては特に欠かせません。ここでは、ご自身でも変更管理を導入できるよう、その基礎知識と具体例をご紹介します。
変更管理とは、プロジェクトや大規模な取り組みの変更リクエストを管理することで、チェンジマネジメント計画に分類されます。変更管理は様々な要素から成り立っていますが、わかりやすく言えば、変更ログを作成してプロジェクトの変更リクエストを追跡すると考えればよいでしょう。
大抵の場合、プロジェクト関係者 (ステークホルダー) は誰でも変更要求ができます。リクエストはプロジェクトのスケジュールに関する簡単な調整といった些細なものから、新しい成果物などの大きなインパクトのあるものまで多岐にわたります。そして変更リクエストの承認や却下は主要な関係者の判断にかかっているため、すべての変更リクエストが承認されるわけではないことに注意が必要です。
変更管理プロセスには多様な業務が連動しており、手順は会社によって異なるため、ライフサイクルのプロセスがスムーズに流れやすくするツールを取り入れると便利です。ワークフロー管理ソフトウェアなどのツールがあれば、その 1 か所で仕事とコミュニケーションの管理が可能になります。
ワークフロー管理を効率的に行うには変更管理 (チェンジコントロール) とチェンジマネジメントは一見、同じように感じるかもしれませんが、変更管理とチェンジマネジメント計画の間には多くの違いがあります。実は変更管理は、チェンジマネジメント戦略の要素の 1 つに過ぎません。
変更管理: プロジェクトの変更に関連して情報の流れをサポートする変更管理は、あらゆる組織にとって重要な手順です。優れた変更管理プロセスには、成功指標の定義、ワークフローの整理、チームのコミュニケーションの円滑化、そして今後のプロジェクトを成功に導くチーム体制の整備が含まれています。
チェンジマネジメント: チェンジマネジメント計画は、コスト予算、スケジュール、コミュニケーション、リソースから構成されています。変更管理プロセスは、変更リクエストとその変更がもたらす影響の概要をまとめた正式な文書ですが、チェンジマネジメントはそうしたプロセスすべてを取りまとめる全体計画です。
おわかりのように、変更管理プロセスは大きなチェンジマネジメント計画の一部に過ぎません。互いに関連していても、2 つの用語はまったく異なるものを指しています。
変更リクエストフォームのテンプレートを作成記事: チェンジマネジメントとは?成功するチェンジマネジメントプロセスを構築する 6 つのステップ変更管理を実施すると、整理ツールを活用したチームの業務管理の円滑化に役立ち、プロジェクトの成果物や期日に関する効率も向上できます。また、適切に管理されていない変更がもたらす影響を考えると、変更管理は非常に重要と言えるでしょう。
変更管理プロセスを的確に導入することによって、リソース管理計画などのワークマネジメントの目標も実行しやすくなります。変更管理プロセスの導入によるその他のメリットには、次のようなものがあります。
仕事の生産性が向上する
効果的なコミュニケーションが取れる
チームワークとコラボレーションが改善される
変更管理の重要性とは、プロジェクトにつきものの変更依頼からその承認、実装までのプロセスを効率化するだけではありません。上記に挙げたそれぞれの項目について、こちらで詳しく見ていきましょう。
適切な変更管理によって、プロジェクトの成果物に関連した混乱が回避され、情報の収集ではなく業務の遂行にフォーカスすることができます。その結果、仕事の生産性と効率がアップしますが、生産性ソフトウェアを活用することでその効果はさらに高まります。
このプロセスが導入されていない場合、「仕事のための仕事」に時間が費やされ、生産性が犠牲になりがちです。最重要である仕事に振り向ける余力が限られるため、毎週、4 分の 1 (26%) の締め切り が守られないといった事態が起きかねません。
変更を適切に記録することで、コミュニケーション関連の問題を回避しやすくなります。目標や目的が明確に定義されていると、チームのコミュニケーションは活気づきます。ただし、変更管理プロセス内ですべてのコミュニケーション問題が解決するわけではないため、注意が必要です。さまざまなプロジェクトについてのコミュニケーションを 1 か所で管理するには、ワークマネジメントソフトウェアを組み合わせることも有効でしょう。
変更管理は経営トップの関係者と共有することで、変更リクエストの背景を簡単に説明できます。
記事: 職場で効果的にコミュニケーションをとる 12 のコツコミュニケーションの円滑化だけでもメリットですが、これによってチームの連携も改善します。プロジェクトの変更に関するコミュニケーションが明快になることで、コラボレーションやチームワークがいっそう容易になります。
たとえば、初回の連絡で変更が明確に伝えられれば、プロジェクト関係者は創意工夫やチームワークにより多くの時間をかけられます。コミュニケーション不全に陥ると、情報をつなぎ合わせることに時間をとられ、チームメンバーが協力して創造性を発揮することができません。
今以上にコラボレーションを強化するには、変更管理プロセスをチームの成功を約束するタスク管理ソフトウェアと組み合わせましょう。
では、変更管理の手順は、どのようなものでしょうか?プロジェクト管理のフェーズには 5 つの段階がありますが、それと同じく、変更管理プロセスの作成にも 5 つの重要なステップがあります。プロセスごとに多少の違いがある場合もありますが、どのプロセスにも共通する、カギとなる要素がいくつかあります。スタートから実行まで、これらの基本ステップの一つひとつを実行することで、変更リクエストはスムーズに進行し、不必要な変更を避けることができます。
変更リクエストの開始
変更リクエストの評価
変更リクエストの分析
変更リクエストの実装
変更リクエストプロエスの終了
場合によってはこうした手順を変更管理プロセスの流れとして、視覚的に表示することもできます。表示方法に関わらず、ここで追求する結果は、変更リクエストの承認か却下という最終判断です。
それでは効果的な変更管理プロセスを構成する 5 つのステップとそれぞれの内容を詳しく見てみましょう。
変更が要求されると、変更管理プロセスの開始フェーズが始まります。変更がリクエストされる理由はさまざまです。たとえば、成果物が予想よりも時間がかかっている場合なら、納期を調整するリクエストが出されるでしょう。リクエストを出すのは多くの場合、プロジェクト関係者かプロジェクトのリーダーですが、変更の提案は誰でもすることができます。
変更リクエストフォームのテンプレートを作成変更をリクエストしたいチームメンバーは、変更リクエストフォームを使ってリクエストを提出します。プロジェクトマネージャーは、変更ログを誰でも簡単に見つけられる場所に格納しておく必要があります。
リクエストフォームに記入したら、プロジェクト名、概説、日付やリクエストした人の氏名など必要と思われる詳細を変更ログに記載します。ログはあらゆる変更の記録で、数か月にわたる複数プロジェクトの管理にも便利です。
変更リクエストフォームに含めるとよいフィールドの例は次の通りです。
プロジェクト名
日付
リクエストの説明
リクエストした担当者名
変更の責任者
優先度
変更の影響
期限
コメント
フォームに含めるフィールドは、変更ログをどれだけ詳細にしたいか、また変更のタイプによって異なります。
リクエストを記入したフォームが送信され、リクエストが受け付けられたら、次はリクエストの評価が行われます。フォームの送信フェーズとは異なり、評価フェーズでは実際の変更内容の評価を行います。
評価フェーズでは必ずしも結論が出るわけではなく、基本的な情報の確認が行われます。情報の評価を行うのはプロジェクトや部門のリーダーで、必要なリソース、リクエストが及ぼす影響、リクエストを割り当てるべき担当者といった詳細事項を検討します。
変更リクエストが初回の評価を通過すると、次は分析フェーズに移動します。ここで具体的な結論が出されます。
変更による影響の分析フェーズでは、そのケースにふさわしいプロジェクトリーダーによってリクエストの承認または却下の最終判断が下されます。リクエストした人も決定に対して意見を述べることができますが、リーダーから正式な承認を得ておくことをおすすめします。状況によっては、変更リクエストの承認全般を管理する変更管理委員会 (CCB, Change Control Board) を設置する場合もあります。
変更リクエストが承認された場合はサインオフを行い、チームに承認について連絡し、5 つのフェーズの残りのプロセスに移ります。変更ログや、プロジェクトに関するコミュニケーションが行われる場所に内容を記録し、プロジェクト関係者全員が必要な変更を理解できるようにしてください。
変更リクエストが却下された場合も、変更ログに記録する必要があります。却下されたリクエストについてチームに連絡する必要はありませんが、記録をとることは混乱を避ける上で有効です。
変更リクエストが承認されたら、実装フェーズに入ります。ここでは、プロジェクト関係者がプロジェクトの変更を行います。
変更の実装フェーズは、プロジェクトのステージに応じて見え方が異なりますが、通常はプロジェクトタイムラインと成果物の更新、およびプロジェクトチームへの通知が中心になります。その上で実際の作業が開始できます。プロジェクトスコープ (プロジェクトの範囲) を評価して、タイムラインの変更によって予定している目標への影響が大きくならないようにすることが大切です。
特におすすめなのが、リクエストの情報を共有ワークスペースと変更ログで周知することです。これによって新しい情報を探す作業で生産性が低下することを確実に防げます。変更の根拠すべてをカバーする、ビジネスケースの改訂版を掲示してもよいでしょう。
リクエストの記録、周知、実装が終わったら、プロセスを終了できます。正式な終了手順がないチームもありますが、将来的にチームメンバーが誰でも参照できるような場所に情報を格納するためにも、そうした手順は有用です。
終了フェーズでは、すべての文書データ、変更ログ、話し合われた内容をまとめ、今後もアクセスできる共有スペースに格納します。プロセス開始時点の変更リクエストフォームや、プロセスの中で作成したプロジェクト計画の改定版なども格納しましょう。
文書を適切な場所に保存したら、未完了のタスクをすべて完了し、プロジェクトの成功に向けて業務を継続します。プロジェクトリーダーによっては、正式にプロジェクトを完了する前に、事後評価ミーティングを開催する場合もあります。
自分で計画を立てる前に、現在のプロセスやツールが、チームにふさわしいかを評価することが重要です。場合によっては、社内の関係者にプレゼンテーションするに当たって、ビジネスケースやプロジェクト計画を作成する必要があるかもしれません。
変更ログに含める情報は、頻繁に発生する変更の種類や、プロジェクトの複雑さによって異なります。数か月にわたる複雑なプロジェクトでは、変更リクエストの発生回数が多くなる可能性がありますが、小規模な単発のプロジェクトではそれほど詳細な変更ログは必要ない場合もあります。
変更ログに何を記載し、どのような形式で作成するかのヒントとして、変更ログの一例をご紹介します。この例には次の情報が記載されています。
プロジェクト名
タスク名
担当者
期日
優先度ステータス
進捗ステータス
変更タイプ
変更ログはシンプルなフォーマットで始めるのがおすすめですが、プロジェクトの複雑さに応じて、フィールドを追加することもできます。
自分で変更ログを作成する際は、カスタムテンプレートを作成するか、Asana のプロジェクトテンプレートギャラリーから選択しましょう。
変更管理プロセスをどんな場面で使用すべきか知っておけば、いざその時が来ても慌てません。新しい取り組みが始まったり、ツールが導入されれば、それに応じてさまざまなタイプの変更が発生するはずです。
一般的な変更リクエストとしては、タイムラインの延長、情報の再整理、成果物に関するものがあります。ここでは、変更管理プロセスが有効な、その他のケースをご紹介します。
スコープ (範囲) の肥大化: スコープクリープとも呼ばれる、プロジェクトの肥大化が起きた場合に、このプロセスを活用できます。
プロジェクトの矛盾: プロジェクトの進行中に矛盾に気づいたら、変更リクエストを行うことで、後で成果物を修正しなくて済む場合があります。
新規ツール: 新しいプロセスやツールが導入されると、最初の何回かのプロジェクトでは新たな課題に取り組むことになり、必然的に変更が発生します。
厳しすぎる目標: OKR が達成不可能な場合もあります。その際には、プロジェクトが完了する前に問題点を指摘する必要があります。
プロジェクトマネジメントにおける変更管理とは何か、そのメリットや手順について解説しました。変更の発生は避けがたいものですが、変更によってプロジェクトが頓挫するわけではありません。変更管理プロセスを適切に導入すれば、確実にプロジェクトの進行を維持でき、明快で効果的なコミュニケーションが可能になります。その結果、生産性が下支えされ、プロジェクトの成果物に関連した混乱を最小限にとどめられるのです。
たとえ変更が必要な場面に直面しても、それに対処する適切なプロセスがあると知っていれば不安はありません。変更管理プロセスを速やかに活用することによって、戦略の変更に伴うマイナスの影響を軽減し、インパクトをもたらす仕事に引き続き集中できます。ふさわしい変更管理ツールを利用すれば、仕事の生産性がさらに上がるでしょう。
今後のプロジェクトをいっそう効果的に管理するためのヒントが必要な方は、プロジェクトスコープの作成方法についての記事もご覧ください。