この記事では、バリューチェーンとは何か、その特徴と目的、メリット、分析方法など、バリューチェーンの基礎知識について解説します。市場での競争優位性を確保し競合他社との差別化を図るために、バリューチェーンを用いましょう。
更新: この記事は、バリューチェーンの例とバリューチェーン分析を効率的に行うヒントに関する記述を含め、2024年 7月に改訂されました。
バリューチェーン (Value chain) とは、主に競合他社との差別化戦略で用いられる概念で、企業活動における各業務はそれぞれ「価値」を創出しており、その価値はまた別の価値と複雑に絡み合って連鎖されていくという考え方です。日本語では「価値連鎖」とも呼ばれます。アメリカ・ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーター氏が 1985年に著書『競争優位の戦略』の中で初めて提唱しました。
企業の事業活動は、さまざまなセクションに分割されています。たとえば製造業ならば、原材料の調達、製造、出荷、販売、アフターサービスなどが挙げられますが、こういった各セクションが生み出す価値を一連の流れとして捉え分析することで、企業は自らの価値を最大化、最適化するための戦略を立てやすくなります。これが「バリューチェーン」の基本的考えです。
記事: 製造業の課題: 業界の動向と問題点、解決策を解説マイケル・ポーター氏はこの他にも、ファイブフォース分析といったフレームワークも提唱しており、世界中で経営戦略およびマーケティング戦略策定に使用されています。
マーケティング戦略の無料テンプレートバリューチェーンの特徴は、事業に含まれるすべての活動を「価値の連鎖」として捉えているところです。事業の付加価値は何か、強みと弱みは何かを知ることができるので、事業戦略や経営戦略を探り、改善するために非常に効果的です。
バリューチェーンというフレームワークは、事業活動を大きく 2 つの活動 (「主活動」「支援活動」) に分類し、それらを「利益」とつなげて考えます。ポーター氏は著書の中で、バリューチェーンの概念図に以下の構成要素を入れています。
バリューチェーンの構成要素 | |
---|---|
主活動 | 購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス |
支援活動 | 全般管理 (インフラストラクチャー)、人事・労務管理、技術開発、調達 |
主活動は製品やサービスが消費者に届くまでの流れに直接的に関係のある事業活動のことを指し、支援活動はその主活動を支援する活動を言います。
バリューチェーンとサプライチェーン (Supply chain) は混合しがちなビジネス用語です。バリューチェーンは先述のとおり「価値連鎖」を意味する言葉ですが、サプライチェーンは「供給連鎖」、つまりモノやお金の流れに注目した考え方です。同じ「流れ」に着目しているとは言え、バリューチェーンとサプライチェーンは違うので、注意が必要です。
サプライチェーン全体を可視化し「一連の流れ」として管理し最適化すること、つまりサプライチェーンマネジメントは企業にとって重要な取り組みです。サプライチェーンマネジメントに関しては、オペレーションマネジメントについての記事『オペレーションマネジメントとは何か?7 つの機能と必要なスキル』をご覧ください。
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バリューチェーン分析とは、バリューチェーンを各事業別に分析するフレームワーク (枠組み) のことを言います。
バリューチェーンを分析する目的には、次のような点が挙げられます。
事業の各工程で発生している問題点を洗い出す
どの工程でどんな付加価値が創出されているのかを把握する
前項 2 点から、事業戦略を改善する
最終的には競合との差別化を図り、事業戦略や経営戦略の改善につながるバリューチェーン。分析するメリットには、次のようなポイントがあります。
分割した各事業工程におけるコストを把握できる: 各工程でかかるコストを俯瞰しやすくなり、コスト削減へ向けて取り組むことができます。
自社の強みと弱みを明らかにできる: どの工程で高い価値が生まれているのかを知ることで、自社の強みを明確化することができます。また同じように、どの点を強化する余地があるのか、自社の弱みも知ることが可能です。
競合他社がどんな価値を提供しているのかを把握できる: 自社にするのと同じように、競合企業に対してバリューチェーン分析を行うことで、他社が提供している価値についても知ることができます。
リソースを最適化できる: バリューチェーン分析を行い、市場での競争力を強化するためにどの点に注力すればいいのか明確になれば、その活動に経営資源を集中させることができます。
それでは、具体的にバリューチェーン分析はどうやって行うのでしょうか?ここでは、4 つのステップにわけて考えます。
自社のバリューチェーンを把握する: 事業活動を主活動と支援活動に細分化し、洗い出しましょう。主活動では、流れが明確になるよう書き出します。
各活動のコストを把握する: ステップ 1 でリストアップした各活動のコストや収益性を確認しましょう。コスト分析をすることで、無駄な部分も見えてくるはずです。
強みと弱みを分析する: ステップ 2 を踏まえて、自社の強みと弱みを見つけましょう。このステップは、客観的かつさまざまな視点が必要となるので、複数人で担当することがおすすめです。VRIO 分析を用いると、さらに効果的でしょう。
戦略を改善する: 自社の強みと弱みがわかったら、具体的にどう戦略改善に反映させるかを考えます。強みを伸ばすのか、それとも弱みの部分を強化するのか。最善の改善案を模索します。
組織におけるミッション、目標、仕事をスムーズにつなげ、可視化する方法を解説します。
VRIO 分析は、価値 (Value)、希少性 (Rrity)、模倣困難性 (Imitability、模倣可能性とも言われる)、組織 (Organization) という 4 つの視点を使って自社の強みと弱みを把握するためのフレームワークです。
価値 (Value): 経済的価値があるとみなされるか?
希少性 (Rarity): 希少性は濃いか?
模倣困難性 (Imitability): 自社の強みを競合他社が模倣するのは困難か?
組織 (Organization): 組織体制は整っているか?
この 4 つの要素に対する質問に「はい」「いいえ」で答え、4 つとも「はい」ならば競争に優位であり、「はい」の数が 0 ならば不利であると判断します。この VRIO 分析は、3C 分析の Company (自社) を分析する際にも有効です。
バリューチェーン分析を行い成功した事例をいくつかご紹介します。製造業、小売業、サービス業という業種別にバリューチェーンの例を挙げるので、参考にしてみてください。
トヨタ自動車は、ジャストインタイム生産やカンバン方式など、リーン生産方式を採用しており、「製造」における効率性が最大の強みとして知られます。製造プロセスを最適化することで、コスト削減にも成功しています。また、部品調達 (購買物流) の段階では、サプライチェーンを強化。供給のタイミングと品質を徹底的に管理し、結果的に顧客満足度の向上も達成し、グローバルな競争力を維持しています。
記事: 製造業における生産性向上のヒントを解説 (成功事例付き)無印良品は、バリューチェーン分析を通じて、シンプルかつ高品質な製品を提供し、ブランドイメージの確立および競合他社との差別化に成功しています。
「購買物流」の段階では、生産拠点を厳選し、高品質な製品を適正価格で提供するための生産管理を徹底しています。一方で、環境に配慮した素材の選定や持続可能な生産方式も重視するサプライチェーンの最適化を行いました。「サービス」では、顧客の声を積極的に取り入れて、製品の改善や新商品の開発に反映しています。
楽天は、EC プラットフォームを最適化し、国内外での市場拡大に成功しました。サイト内で多様な商品カテゴリーを取り扱い、顧客のニーズに応えられるプラットフォームの拡充を実現。また、「出荷物流」の段階にも着目し、自社の物流ネットワーク「楽天フルフィルメントセンターを設立。迅速な配送と的確な在庫管理を行っています。また「サービス」の面では、購買データや顧客行動データを詳細に分析し、パーソナライズされたおすすめ商品を提供することで、顧客満足度の向上も実現したり、楽天ポイントプラグラムを通じて、顧客のロイヤルティも高めています。
プロジェクトを円滑に進めるために、クラウド型プロジェクトマネジメントツールを活用しましょう。WBS 作成や工数管理もできる Asana なら、すべての仕事を 1 か所に整理できるから、業務効率が向上します。
Asana でプロジェクトを計画するメリット事業の価値を把握するために効果的なバリューチェーン分析。効率的に行うために考慮したいポイントをまとめます。
収集したデータはグラフやチャートで可視化し、複雑な情報も直感的に理解しやすくなるようにします。自社の強みと弱みを把握したら、どこに注力するのか特定し、具体的な策を立てなければなりません。その際には、具体的かつ実行可能なものになるよう考慮しましょう。改善の進捗状況は定期的にモニタリングし、必要ならば見直し、調整をするようにします。
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プロジェクトの進捗を簡単に報告する方法バリューチェーンに関するデータはすべて、ひとつのプラットフォームにまとめて管理し、情報の点在化と重複を避けましょう。全員がアクセスできるワークマネジメントツールなどのデジタルツールを使用すれば、リアルタイムの情報をステークホルダー全員が把握できるので、意思決定の迅速化にもつながります。
各事業に関連する専門知識を集め、精度の高い分析を行いましょう。そのためには、部門を超えたメンバー間のコミュニケーションとコラボレーションが不可欠となります。コミュニケーションを円滑化し、質の高いコラボレーションが行えるよう、Asana のようなワークマネジメントツールを活用します。
仕事を楽にする「コラボレーションツール」とは?バリューチェーンとは何かについてまとめました。構成要素や目的、分析方法を把握して、効果的なバリューチェーン分析を行いましょう。
バリューチェーン分析をより一層効率的に行うなら、クラウド型ソフトウェア上でチームと共有できるテンプレートを使いましょう。Excel などのフォーマットでもいいですが、オンラインだと変更があったときもすぐに関係者とシェアできるので便利です。
Asana のプロジェクトマネジメント機能を試す企業のブランドイメージに大きな影響を与えうるレピュテーションリスクについて解説した記事『レピュテーションリスクとは?影響と対処法を解説』も Asana でご覧ください。