プロジェクト予算とは、金銭的なことではなく、プロジェクトのアイデア出し、実行、納品までの指針となる支出の計画です。予算編成をマスターすれば、チームがよりよい成果を出すために必要なリソースを確保することができます。この記事では、予算作成のプロセスを、プロジェクトを成功に導くヒントを交えながら紹介します。
プロジェクトを車に例えると、予算は燃料にあたります。トラックを走らせるにはガソリンが必要なように、プロジェクトには資金やリソースが必要です。そして、最も効果的な計画を立ててそのリソースを使い、プロジェクトというトラックを、ガス欠させずに期限どおりに目的地に到着させるのがプロジェクトマネージャーの腕の見せどころです。
プロジェクトの予算は仕事を進める上で欠かせないものですから予算計画をしっかり立てて実行する方法を知っておくことは、キャリアを積む上でもとても重要なプロジェクト管理スキルの一つです。
プロジェクトの予算とは、費用の総額、用途、期限を詳細に定めた計画のことです。事前に予算計画を作成し、それをもとにプロジェクト期間をつうじて支出をモニタリングすることで、多くの職場で起こりがちなリソース不足や予算超過の可能性を低減することができます。実際、プロジェクトマネジメント協会が 2021年に実施した調査では、組織内のプロジェクトのうち、当初の予算内で完了したものは、過去 12 か月間でわずか 62% であったと報告されています。
プロジェクトを開始する前に予算を立てておくと、スコープ (作業範囲) が定まり、コストを管理することができます。また、詳細な支出計画があれば、目的に対してどのようにコストが充てられるかが承認者にとって理解しやすく、プロジェクトを関係者にアピールし、必要な資金を獲得するのにも有効です。また、プロジェクトの進捗に応じて、プロジェクト予算をベースラインとして、実際の支出と予算上の支出を比較し、余分なコストが発生した場合にはなるべく抑える対応ができます。
記事: プロジェクト会計: プロジェクトの費用便益の評価方法プロジェクトの見積もりテンプレートを作成プロジェクトの予算作成は大変な作業に思えるかもしれませんが、一連の手順を踏むことで作成することができます。以下に、予算編成のプロセスを順を追って紹介します。
プロジェクト目標とは、プロジェクト完了時までに達成することを目指す項目です。始めに決めておけば、仕事の方向性を理解するのに役立ち、プロジェクト計画を進めていくにあたっての道しるべのような役割を果たしてくれます。
よい目標というのは、明確で、検証可能であることが条件であり、プロジェクト終了時に成果を測る際にはベンチマークとして用いることができます。明確な目標を書くには、SMART の手法を使いましょう。SMART とは、Specific (具体的)、Measurable (測定可能)、Achievable (達成可能)、Realistic (現実的)、Time-bound (期限がある) の頭文字です。たとえば、ウェブサイトへの訪問者数を増やしたいのであれば、「今四半期末までに、ウェブサイトのホームページへのオーガニックトラフィックを 10% 増加させる」という目標が考えられます。
記事: よりよい SMART な目標作成のためのヒントと実例目的を設定したら、その目的を達成するために必要な作業範囲を決定します。プロジェクトスコープは、行う作業、行わない作業、また、目指す期日や成果物など、プロジェクトの境界を設定します。プロジェクトスコープを定義する際には、以下の点を考慮してください。
使用できるリソース: 目標とする具体的な成果物を決定する前に、利用できるリソースを把握してください。予算の上限が厳しい場合や、プロジェクトチームのキャパシティが限られている場合は、それに合わせて成果物を調整する必要があります。このことから、成果物や必要なリソース (後続ステップを参照) の詳細に着手する前に、制限事項を把握しておくことが有効です。
時間制限: 時間的な制約があるプロジェクトですか、それとも必要なだけ時間をかけて大丈夫でしょうか?プロジェクトのスケジュールがタイトな場合、リソースのコストに影響が出ます。たとえば、タイトなスケジュールの作業では、フリーランスの作業者に支払う特急料金が発生するかもしれません。
目標としないこと: プロジェクトのスコープに含めないこととは?達成する必要がないことは何かを明確にしておくと、スコープクリープや過剰支出の可能性を回避することができます。
忘れないでください。プロジェクトスコープは、境界を設定するためにあるのです。達成したいこと、実施する作業、目指す成果物を理解する助けとなります。
記事: クイックガイド: 8 個のステップでプロジェクトスコープを定義次は、プロジェクトスコープに含まれるすべての成果物をリストアップし、下位の依存関係に分解します。たとえば、ブログ記事を公開することが、プロジェクトの成果物の一つであるとしましょう。作業の流れを以下のような項目に分けます。
ブログ記事のドラフト作成
ブログ記事の修正
デザインイメージの作成
Wordpress での記事の公開
この方法では、プロジェクトの隠れた費用を、作成する予算に含めることができます。たとえば、ブログ記事の公開に必要な総予算を何の準備もなく見積もると、フリーランス編集者の時給や、有料のソーシャル投稿の費用など、別途発生するその他のコストが漏れてしまう可能性があります。
リストよりも図が好きな方は、作業分解構成図 (WBS) を作成してみてください。この視覚化ツールでは、仕事に複数の階層を持たせ、一番上に主な目標を配置し、そこから成果物へと枝分かれし、さらに下位の依存関係につなげます。
記事: 作業分解構成図 (WBS): 知っておくべきすべてのことすべての成果物と下位の依存関係が明確になったところで、各項目に必要なリソースをリストアップします。可能な限り具体的に記述します。リソースとは、スタッフや装備だけではなく、トレーニングや物理的な作業スペースなどの間接的なコストも含まれることを忘れないようにしましょう。
ここでは、プロジェクトで一般的なコストの項目をご紹介します。
チームメンバー: 作業を担当するのは誰ですか?給料制の社内スタッフなのか、それとも時間給の契約社員を追加で雇う必要があるのか、メモしておきましょう。
調達: 外部リソースを調達するには何が必要ですか?たとえば、最適な製品を調べたり、営業担当者と商談をしたり、ツールを購入したりする作業をチームメンバーに依頼する必要があるかもしれません。
トレーニング: チームメンバーが作業をもっと速く進めるには、時間やリソースが必要ですか?スタッフが新入社員を教育するための時間や、新しいスキルの習得に必要なコースを受講するのに要する時間を考えてみてください。
道具: 必要なツールは何ですか?追加のコンピューターモニター、デザインソフトウェア、インターネットサービスなどが考えられます。
スペース: チームが作業する場所はありますか?たとえば、新しいチームメンバー用に、会議室やデスクのスペースが必要かどうかを考えてみましょう。
リサーチ: どのようなデータが必要ですか?ユーザー調査、ウェブ解析、世論調査などの情報を利用するかどうかを考えます。
専門サービス: 法務やマーケティングのコンサルタントなど、外部の専門家を雇う必要がありますか?
移動: 交通費や宿泊費、あるいは外出先での食事代などをチームに支給する必要がありますか?
予算とはあくまで、コストを見積もったものです。未来を予測することはできませんが、可能な限り正確な見積もりを出すための方法はいくつか存在します。1 つの方法にこだわる必要もありません。プロジェクトの状況に応じて、複数の方法を組み合わせて使えばよいのです。
ここでは、見積もりのテクニックをご紹介します。
ボトムアップ見積もりと呼ばれるこの方法は、現在のプロジェクトの成果物や下位の依存関係を正確に把握している場合に最適な手法です。作業分解構成図をすでに作成していれば、すぐにこの手法で見積もることができます。
念のため、ここに紹介する別の方法で見積もったコストと比較してみましょう。たとえば、過去の同様のプロジェクトでどのように予算が使われたかを記録しておくこともできます。
この手法では、成果物や、プロジェクトのマイルストーンに、決まった予算額を振り分けていきます。プロジェクトの成果物にどれくらいの費用がかかるかを知らない場合は、逆算するのは少々難しいかもしれません。しかし、限られた予算の中でどの目標を達成できるかを判断する際には有効です。
この手法を使う必要がある場合は、ここに紹介する別の方法と組み合わせてみてください。たとえば、達成可能な目標が判明したら、ボトムアップ見積もりで重要な要素が漏れていないか確認していきます。
過去のプロジェクトは、履歴データの宝庫です。なぜなら、支出が予算内に収まっていた (あるいは超過した) 時点を示す実際の記録だからです。ですので、見落としているコストを発見できたり、予想外の状況が支出にどう影響したかを知ることができます。可能であれば、過去の類似プロジェクトから教訓が得られないか確認してみましょう。
さまざまな結果が想定される複雑なプロジェクトの場合、見積もりは難しいものです。たとえば、4月開催の屋外イベントの場合、天候によって費用が変わってきます。暑ければテントや扇風機、逆に寒ければヒーター、雨天時には屋内会場を手配する必要もあります。
この場合、シナリオ別に支出を見積もることが有効です。予算に余裕があれば、安全策をとり、最も費用の高いシナリオで予算を立てることもできます。あるいは、最悪の結果、最良の結果、最も可能性の高い結果それぞれの予想支出額を算出し、その平均値を用いることもできます。
不測の事態はいつ起こるかわからないものです。ツールの故障、スケジュールの変動、100 年に一度のパンデミックまで、状況を一変させる出来事が起こりえます。また、プロジェクトの進行中に、事業用資産を安く購入できるなど、思いがけない機会に恵まれることもあります。臨時費があれば、計画が変更されたときに、予算に余裕を持てます。不測の事態に備えて総予算の 5~10% を確保するのが一般的です。
予算編成自体が見積もりのプロセスですので、必ず臨時費を計上しておきましょう。また、作成した予算が非常に正確で、最終的に臨時費を使う場面がなかった場合も、余った資金は会社の収益にプラスとなります。
記事: 8 つのステップでビジネスリスクを未然に防ぐコンティンジェンシープランを作成この時点で、プロジェクトのすべての成果物、割り当てられたリソース、推定コストが明らかになっています。いよいよ、実際に予算書を作成する重要なステップです。ここに、重要な要素をいくつかご紹介します。
各成果物、下位の成果物、必要なリソースの項目と、それぞれの予測コスト。
各リソースが必要になる時期、資金を使う時期を示すタイムライン。
各予算の構成要素の担当者。たとえば、編集アシスタントがフリーランス作業者の労働時間や請求書の追跡を担当している旨のメモを残しましょう。
社の予算のうち、どの部分が各項目の費用に充てられるかを明確に文書化します。たとえば、マーケティング部門の予算で動画広告を作成し、IT 部門の予算でコンピューターのアップグレードを行うといった具合です。
プロジェクト全体での総支出額。各部門の予算から捻出する費用の合計を適宜記入してください。
プロジェクトが始動した後、実際のコストと予算上のコストを追跡するための欄。
プロジェクト予算編成ツールの選択も重要です。プログラムを選択する際は、項目に変更があるたびに手動で再計算しなくてよいよう、金額の自動集計機能を備えたものを選びましょう。また、予算の共有や、リアルタイムの更新が簡単にできるツールなら、チームメンバー全員が最新版の情報で作業ができます。
基本的なエクセルのスプレッドシートや、より頑健なプロジェクト管理ソフトウェアなど、選択肢はさまざまです。ツールを選ぶなら、もちろん、項目の入力と集計、カスタムフィールドの作成、オーナーの割り当て、チームメイトとの情報共有まで簡単にこなす、Asana がおすすめです。また、実際の予算作成の他にも、過去のワークフローを反復する、プロセス文書を作成する、プロジェクト予算のテンプレートを保存するなどして、ステップの見落としを防ぐことができます。
記事: チームに適したプロジェクト管理ソフトウェアを選ぶ方法守ることができてこそ予算です。予算と実際のコストを比較する頻度を事前に計画しておけば、問題が大きくなる前に、問題を軽減することができます。また、予算を超過した場合 (または予算内の場合) にどう対応するかを前もって決めておくこともできます。
Asana のようなツールの利点は、予算をリアルタイムで共有、管理、追跡できることです。たとえば、Asana のプロジェクト横断レポート機能なら、プロジェクトが順調に進んでいるかどうかをわざわざ調べなくても、プロジェクトから自動的にデータを取り出し、支出、タスクの状況、完了済みマイルストーンなどを一箇所に表示できます。
プロジェクトの予算計画ができたら、今度はプロジェクトの関係者に共有し、承認してもらいましょう。詳細に作成した計画が手元にありますから、各項目がプロジェクトの目標にどう貢献するのか、承認者に明確なイメージが伝わるはずです。
記事: ビギナーズガイド: 効果的なビジネスケースの書き方たとえば、第 3 四半期にチェックアウト (決済) の平均時間を 25% 短縮するというプロジェクト目標を目指して、モバイルアプリのチェックアウトフローを更新しようとしているとします。そして、この目標を達成するために、優先的な成果物を 2 つスコープに含め、必要なリソースを配しました。
以下に、プロジェクト予算の簡単な例をご紹介します。それぞれのタイムライン、オーナー、推定コストが記載されています。また、各項目にどの部門の予算が充てられるかが表示されており、予算の承認と実際の支出を追跡する欄も追加されています。
周到な予算は、計画、承認、実行まで、プロジェクトのライフサイクル全体をサポートします。予算編成をマスターすれば、プロジェクトチームが重要な目標を達成し、よりよい成果を出すために必要なリソースを確保することができます。また、支出を追跡できるプロセスを確保しておけば、予期せぬコストが発生しても対処でき、予算承認者との信頼関係を構築し、プロジェクトの成功という確かな実績を作ることができます。
プロジェクト管理について詳しく見るには、成功するために欠かせない 25 のプロジェクト管理スキルをお読みください。