プロジェクトベースラインとは、プロジェクトのスケジュールやコスト、スコープの予め決められたターゲットのことです。プロジェクト計画にベースラインを盛り込めば、プロジェクトのパフォーマンスを確認する上での目安として利用できます。この記事を参考にして、ベースラインを設定する方法を学び、ベースラインを使って予定通りにプロジェクトを進めましょう。
次の場面を想像してみてください。あなたは弓道場で弓を構え、何もない壁に向かって矢を放とうとしています。放たれた矢は一直線に壁に向かって突き進み、壁に突き刺さりました。あなたはガッツポーズを決めようとしましたが、途中でやめました。真っすぐ矢を放つことができたと思いましたが、壁はどの場所も同じように見えるため、本当に真っすぐ矢を射ることができたのかどうか確信を持てなくなったためです。
気を取り直して今度は的に狙いを定めます。弓を引き、矢を放つと矢は見事に的の中心に命中しました。今回は、行射が成功したことがわかりました。
的 (ターゲット) を用意するとロビン・フッド (タイツをはかなくても) 気分を味わえるだけでなく、自分の実力を測る基準を得られます。プロジェクトにおいてはベースラインがターゲットであり、プロジェクトのパフォーマンスを計測する際に基準の役目を果たします。
プロジェクトベースラインとは、プロジェクトのスケジュールやコスト (予算)、スコープ (範囲) の予め決められたターゲットのことです。プロジェクト計画の一環としてベースラインを決定します。その後、プロジェクトの進行中にベースラインを基準として使用し、プロジェクトのパフォーマンスを計測します。
プロジェクトベースラインには次の 3 つの種類があります。
スコープベースラインはプロジェクトスコープ (プロジェクトの範囲) を明確に定義します。スコープベースラインにはプロジェクトで重点的に取り組む目標やプロジェクトの成果物のリストが含まれます。
スケジュールベースラインはプロジェクトの期間を定めます。スケジュールベースラインはプロジェクトの予定そのものであり、各成果物に対して締め切りを明確に定め、プロジェクトの最終的な締め切りも設ける必要があります。
コストベースラインは推定のプロジェクトの予算を表します。コストベースラインはリソースを各成果物に振り分けた上で合算し、プロジェクトのコストの推定総額を明らかにします。
プロジェクト計画にはこれら 3 つのベースラインがすべて必要です。プロジェクトの進行中は各ベースラインに対する実際のパフォーマンスを追跡し、スコープ、スケジュール、予算がターゲットに収まっていることを確認します。
Asana のプロジェクトマネジメント機能を試すプロジェクトベースラインはプロジェクトを成功に導く上で欠かせません。プロジェクトベースラインがあなた、そして、チームの役に立つ理由を挙げていきます。
ベースラインはプロジェクトのパフォーマンスの基準を定めます。作業の進行中に、計画時に設定したベースラインを基準として実際のパフォーマンスを計測できます。こうすることで、プロジェクトのスコープ、スケジュール、予算がターゲットに収まっているか (またはターゲットから外れているか) を確認し、問題が大きくなる前に修正できるようになります。
3 つの種類のベースライン (スコープ、スケジュール、予算) はパフォーマンス計測ベースライン (Performance Measurement Baseline: PMB) を構成します。実際のパフォーマンスを 3 つの領域で予測したベースラインと比較することで、プロジェクトの状況を正確に把握できます。
1 つの領域の 1 点の変更が別の領域にどのように影響するのかを見える化するため、3 つのベースラインを同時に計測することが大事です。たとえば、スコープを拡大することでスケジュールとコストにどのような影響を与えるか、などです。3 つのベースラインをすべて確認することで、計画済みのスコープやスケジュール、予算を変える必要がある際にどのように調整を行えばよいのかが見えてきます。実際のパフォーマンスとベースラインとの差があまりにも大きくなってしまった場合は、ベースラインを定め直すか、もしくはプロジェクトの目標を現実的に達成可能な目標に変えるかを判断します。
たとえば、ブログのシリーズ記事を作成するプロジェクトを想像してみてください。このプロジェクトではスコープを記事 10 本に定めていましたが、11 本に増やしました。その結果、プロジェクトのコストは増加し、また完了までの期間も延びることになり、予算とスケジュールがベースラインから外れてしまいました。プロジェクトの計画時に時間と予算に余裕を持たせていなかった場合は、プロジェクト目標の調整を迫られるかもしれません。
記事: プロジェクト管理のトライアングルと、それがチームにもたらすメリットとは?ベースラインを設定し、ステークホルダー (関係者) に伝えると、関係者全員が、誰が何をいつまでにするのか、どれくらいのコストが合計で必要なのかを把握できます。ベースラインをステークホルダーと共有するメリットを以下に挙げます。
スコープベースラインを知らせることで、ステークホルダーはあなたが何を達成しようとしているのかを正確に理解できます。これは、プロジェクトの成果物が何なのかをステークホルダーが把握する上で有効です。たとえば、ステークホルダーからインタラクティブなコンポーネントを持つ新しいランディングページのデザインを依頼されたと仮定します。しかし、現在の予算では、ランディングページは作れても、インタラクティブなコンポーネントを加える余裕はありません。スコープベースラインを設定することで、事前にこの制約をステークホルダーに伝え、全員が同じ情報を共有する状況を作り出せます。
スケジュールベースラインはそれぞれの成果物をいつ完了するのかを明確に示します。スケジュールベースラインを知ることでステークホルダーは、各成果物の完了までの時間を把握できるようになり、最終的な製品の納品日を知ることができます。またステークホルダーがリクエストを追加して、プロジェクトスコープを拡大することを望んだ場合は、そのリクエストがプロジェクトのスケジュールと予算に与える影響をわかりやすく示せます。
コストベースラインは成果物に必要なリソースを定めます。ステークホルダーがリクエストの追加を望んでいるなら、予算を示すことでリクエストを実現するためにコストがさらにかさむことを明示できます。そのため、この情報を基にリクエストを断るか、または順序だてて説明して予算の追加を要請することになります。
3 つのベースラインを併用することで、ステークホルダーはスコープ、スケジュール、予算への変更がプロジェクトの成功にどのような影響を及ぼすのかを理解しやすくなります。プロジェクトベースラインは、追加のリクエストを断り、スコープクリープを阻止する手段として、さらにスケジュールやコストへの変更がプロジェクト全体の目標に与える影響を伝える手段として、有効です。
プロジェクト終了後、実際のパフォーマンスをベースラインと比較し、初期の予測がどれぐらい正しかったのかを確認できます。こうすることで、たとえば、プロジェクトの予算を計算した際に考慮していなかった要素、予想以上に時間を要した成果物、またはスコープに含めるべきではなかったタスクに気づくなど、ベースライン作成プロセスにおいて改善可能な領域を特定できるようになります。
すべてのプロジェクトで実際のパフォーマンスをベースラインと比較して分析することで、予想を下回る、または超過してしまう領域を確認できます。今後のプロジェクトでは、この知識を活用してより正確な予測を立てられるようになります。
たとえば、今四半期の 5 つのプロジェクトのうち 3 つで、チームメンバーの病欠により納期が 1 週間延びてしまったと仮定します。その場合、土壇場での欠勤に対応できるように、今後は各プロジェクトのスケジュールに余裕を持たせるとよいでしょう。
記事: プロジェクトマネジメントで学んだ教訓を記録しておく方法適切なプロジェクト管理計画を作成する上で、プロジェクトベースラインの設定は避けては通れません。次回のプロジェクトを計画する際は、以下の 5 つのステップに従ってベースラインを作成し、さまざまな部門のパートナーに伝えましょう。
まずはプロジェクトのスコープベースラインを設定します。スコープがスケジュールと予算を左右するためです。プロジェクトスコープは、成果物を明確に定義して、範囲を限定します。プロジェクトスコープステートメントとして、または作業範囲記述書 (Statement of Work) としてスコープを記録できます。
記事: 作業範囲と作業範囲記述書の違いとは?スコープベースラインを作成する際は、プロジェクトで達成したい成果物をすべてリストアップし、各成果物を実行可能なタスクや副成果物に分割しましょう。たとえば、成果物の 1 つが就職イベントを開催することなら、この成果物を以下の副成果物に分割できます。
イベント会場を予約する
ケータリングサービスを予約する
ゲスト講演者を決定する
リマインダーメールを送信する
また、作業分解構成図を作り、プロジェクトの成果物と副成果物をすべて視覚的に整理する手もあります。作業分解構成図では、仕事を複数のレベルに分けます。1 番上のレベルには主要な目標を置き、その下に続くレベルで従属する成果物と副成果物に枝分かれしていきます。
プロジェクトスコープを決定したら、続いてプロジェクトスケジュールを計画し、スケジュールベースラインを策定します。スケジュールベースラインを作成する際は、各成果物と副成果物に明確な締め切りを決め、さらにプロジェクト全体の最終期限を定めます。現実的な締め切りを策定し、タスク間の依存関係を明確に示しましょう。たとえば、先ほどの例では、リマインダーメールを送信する前に就職イベントの講演者リストの作成を完了しておく必要があります。
一部のプロジェクト管理ツールはプロジェクトのスケジュール内で依存関係を確認できる機能を備えています。そのため、依存関係に応じてプロジェクトを計画し、締め切りを決められます。たとえば、Asana のタイムラインビューはガントチャートのように、プロジェクト内にタスクとマイルストーンを配置し、依存関係を見える化します。その上、完了済みのタスクやタスクの担当者も確認できるため、リアルタイムでプロジェクトのスケジュールをチェックし、共有できます。
スコープとスケジュールを決めたら、プロジェクト予算 (コスト) のベースラインの作成に進みます。予算を作成する際は、プロジェクト内の成果物と副成果物に必要なリソースをすべてリストアップします。その後、各リソースにいくら必要なのかを予測します。
最終的な予算書には成果物および副成果物に対する予算項目や必要なリソースに加え、それぞれの予想されるコストを盛り込みましょう。また、リソースがいつ必要になるのか、いつ資金を使う予定なのかに関してタイムラインを用意するべきです。さらに、それぞれの予算の要素の責任者とプロジェクト全体の支出の合計を加えると便利です。
下の例では、推定コストの列がプロジェクトの予算のベースラインを表しています。こうすることで、作業の進行中に実際の出費を確認し、ベースラインと比較できます。
スコープやスケジュール、コストが設定したベースラインをオーバーしたとしても、プロジェクトが失敗に終わるとは限りません。実際に、変更を見越した計画の立案は、プロジェクトベースラインの作成プロセスにおいて欠かせません。
3 つのプロジェクトベースラインを決定したら、変更管理プロセスを策定し、チームやステークホルダーから変更をリクエストされた際に、どのように対応するかについて説明します。変更管理プロセスは、柔軟な対応を維持し、プロジェクト進行時のステークホルダーによる変更のリクエストを可能にします。このプロセスはプロジェクトのスコープやスケジュール、予算が制御不能になる状況を予防する効果があります。この場合、変更のリクエストには成果物の追加、タイムラインの修正、予算調整などが含まれます。
変更管理プロセスは通常以下のフェーズを踏んで行われます。
開始: ステークホルダーが変更リクエストフォームを送信し、変更の重要性に関連する情報を提供します。この情報には変更の概要、優先度、重要な締め切りが通常含まれます。
評価: プロジェクトリーダーや部署のリーダーがリクエストの詳細を確認し、必要なリソース、リクエストがもたらす影響を考慮した後、リクエストの担当者を決定します。
分析: プロジェクトリーダーがリクエストを承認するか、拒否するかを判断します。このフェーズではプロジェクトのベースラインに照らし合わせてリクエストを検討し、変更がスコープやスケジュール、予算にどのような影響を与えるのかを特定します。
実装: リクエストが承認されたら、ステークホルダーと協力して変更を行います。実施した変更が何なのかと、その変更がプロジェクトのベースラインに与える影響を記録しましょう。大規模な変更の場合は、プロジェクトの目標を調整し、新しいベースラインを作成する必要があるかもしれません。
終了: リクエストを終了し、すべての文書、変更ログ、コミュニケーションをステークホルダーが後ほど簡単にアクセスできる共有スペースに保存しましょう。
変更管理プロセスを確立しておくことで、3 つのプロジェクトベースラインの観点からリクエストを検討できるようになります。たとえば、プロジェクトスコープに新たな成果物を追加するリクエストを受けた場合、この追加がスケジュールと予算に与える影響をすぐに分析できます。プロジェクトがベースラインから大幅に外れてしまうなら、変更を拒否し、変更リクエストを終了しましょう。
最後のフェーズもとても重要です。主要なステークホルダーにベースライン案を提示します。フィードバックが集まったら、正式なベースラインに反映させましょう。あなた自身、そして、ステークホルダーがプロジェクトのスコープ、スケジュール、予算のターゲットにおいて足並みを揃える上で、このフェーズは大事です。たとえば、デザインチームのリソースがプロジェクトの命運を握っているなら、ベースラインを共有することで、これらのリソースを期限内に引き渡すことの重要性をチームに理解してもらえます。提案した締め切りにデザインチームが難色を示したなら、スケジュールベースラインを調整します。
ステークホルダーはプロジェクトの特定の領域に関して専門的な知識を持っている可能性があるため、このフェーズではベースラインの調整、改善を行える可能性があります。たとえば、財務部なら成果物に必要なコストや支払いの時期などに関して、有益な情報を提供できるかもしれません。
可能です。しかし、頻繁に変更する行為はおすすめできません。本当に必要に迫られたときにだけ変更するべきです。たとえば、チームメンバーがチームを抜け、担当者の割り当てをやり直す必要がある際はプロジェクトベースラインを変更するべきかもしれません。
プロジェクトベースラインを頻繁に変更してしまうとベースラインの意義が薄まります。ベースラインはあくまでもターゲットであり、最終的な結果が完全に一致していなくても問題はありません。スコープやスケジュール、予算のベースラインが多少ずれても、別の領域でこのずれを相殺できればよいのです。たとえば、プロジェクトスコープを拡大しても、別の領域で予算と時間を少し削ることができればプロジェクトベースラインの設定をやり直す必要はありません。
記事: プロジェクトはなぜ失敗するのか?よくある 7 つの原因と解決策プロジェクトベースラインは、プロジェクト進行中にパフォーマンスを追跡確認するために必要なツールです。ステークホルダー全員が簡単にベースラインにアクセスし、確認できる状態にしたいなら、プロジェクト管理ソフトウェアを使ってベースラインを作成しましょう。こうすることで、チームとステークホルダーは協力したり、ベースラインに直接コメントを残せるようになります。さらにリアルタイムで変更を確認できる利点もあります。
Asana のプロジェクトマネジメント機能を試す