江戸時代、庶民が一生に一度は行きたいと願った「お伊勢参り」は、現代も年間約800万人の参拝があるといいます。その伊勢神宮の門前町にある老舗「ゑびや大食堂」は、1912年の創業以来、約100年以上もの間、お伊勢参りをする人々に「郷土の味」をふるまってきました。老舗のよさを活かしつつ業務効率と収益率を上げ、飲食ビジネスのDXのお手本となったゑびやのAnasa活用について取材しました。
業に勤務していた小田島春樹氏が伊勢神宮の門前町にある有限会社ゑびやの経営に携わるようになったのは、2012年のこと。
「東京に残って起業も考えましたが、これまで得てきた知識と経験を地方で役立てたら」と、妻の実家である同社の経営に飛び込みました。
当時、ゑびやにはエアコンがなく、注文は手書きの食券、売上げ票はそろばんを弾いて計算したものをファイリングするというものでした。提供するメニューは蕎麦やカレーなどの軽食。小田島氏は昔ながらのやり方と立地の優位性に助けられての商売に危機感を覚え、「勘に頼る経営ではなく、データに基づいた経営」への転換をスタートさせました。
2年後、ゑびやのデータ戦略は、その日の天候から売上実績、人気メニューの売上げ、観光予報プラットホームからの近隣ホテル宿泊数などのデータをExcelで入力するまでになり、その後、クラウドPOSレジの導入、Excel入力の自動化へと進化していきました。
小田島氏がAIやデータ活用をするきっかけとなったのは、小売飲食経営とその現場で働く人々の厳しい現状を目の当たりにしたからだったといいます。
多くの課題を解決するプロジェクトのために小田島氏が立ち上げたのが、マーケティングやデータ分析、商品・メニュー開発、店舗運営、ソフトウエア開発のためのエンジニアなどのチームでした。プロジェクトの成功の鍵は、社内のチームが連携し、さらにそれぞれのチームが社外との連携をスムーズにすることです。ゑびやでは、コミュニケーション・ツールとしてフロー型のMicrosoft Teamsを使用していましたが、これにAsanaの「チーム状況の共有」や「タスクスケジュールの管理」「目標管理」などを組み合わせてプロジェクトの迅速化を図ることにしました。
Microsoft Teamsのメッセージ画面からAsanaのタスク管理画面にスムーズに移れたり、Microsoft Teamsの画面でAsanaの営業タスクを確認できるなど、Asanaがさまざまな製品やサービスとスムーズに連携できることを高く評価しているそうです。
小田島氏はさらに「Asanaの豊富なテンプレートとメンバーがタスクを登録できるシステムを評価したい」と話します
整理されて見やすいリストは、仕事の抜けや漏れの防止にもなるといい、またスマートフォンからでも利用できるAsanaは外出先や打ち合わせ後に情報確認やタスクの登録ができるため、仕事の効率化・迅速化につながっているといいます。
さらに、Asanaのタスクの登録が管理者ではなく、メンバーそれぞれが登録できるシステムについて次のように話してくれました。
2012年にスタートした老舗「ゑびや大食堂」のDXは順調に進み、2018年には独自の来客予測システム「TOICH POINT BI」を完成させ、IoTデバイスによる在庫の管理と自動発注を開始。勘に頼っていた食材などの発注を重量センサーで管理し、自動発注できるようになりました。また、周辺ホテルの宿泊情報やホームページのアクセス数、天候、気温、各メニューの売上げなどのデータ200種類以上を分析して予想し、現在、来客数の的中率は9割を超えているそうです。
大量に廃棄されていた食材も、来客数の予測によって食材の仕入れを計画的にできるため、80%の削減できたそうです。また、ゑびやではメニュー開発により、新鮮でおいしい三重の地のものを生産者から直接仕入れていますが、仕入れの無駄がなくなったため、生産者の希望価格で取引できるようになり、結果、品質のよい食材を届けてもらえるようになったと話します。
2018年、ゑびやは実体験に基づいて構築したITシステムを還元したいと、「EBILAB」を設立。POSデータ分析や来客予測などのシステム、テレワーク支援などのサポート事業を展開しています。ゑびやがそうであったように、デジタルの技術を人手不足に悩む小規模な飲食店などに活用してもらい、「笑顔を売る人が、笑顔でいられる世の中にする」(小田島氏)ことを目指しているといいます。
そしてゑびやが新事業を展開する中でも、Asanaはゑびやの「組織を拡大せずに生産性向上で成長する」という理念のもと、「リソースを節約する」要として、引き続き活用されています。