交渉をうまく進めるのは簡単ではありません。しかし適切なスキルや小技を使えば、あなたも取引を成立させる達人になれます。交渉の事前準備のコツと、話し合いのテーブルに着いたとき、手強い駆け引きを有利に進めるためのテクニックをご紹介します。
社会人として働いている以上、欲しいものを手に入れる唯一の (合法的な) 手段は「交渉」です。しかし交渉と聞くと尻込みする人も少なくなく、調査によれば、普段、意識的に交渉を避けようとする人は 40% に及びます。
交渉恐怖症の特効薬は、準備です。交渉もほかのスキルと同じで、少し練習すれば、自信をつけ、手強い駆け引きも有利に運べるようになります。
交渉とは、2 人以上の当事者が合意に至るための話し合いです。交渉によって、当事者たちは自分の要求を満たし、受け入れられるポイントを探そうと努力します。このプロセスでよく行われるのが、妥協のすり合わせである「駆け引き」です。当事者全員が納得できるよう、それぞれが譲歩するのです。
交渉は大きな商談で行われるだけではありません。会議中に誰がメモをとるかを決めるといった小さなことから、企業の合併の成立などの重大な事柄まで、さまざまな場面で行われます。あなたがチームリーダーなら、おそらく毎日のように交渉をしているはずです。そうした交渉の例としては、次のようなものがあります。
昇給や福利厚生の改善を願い出る。
プロジェクトの資金を確保する。
チームの業務を優先するよう関係者を説得する。
新しい IT ベンダーにソフトウェアの価格交渉をする。
どの成果物をプロジェクトに含めるか、あるいはプロジェクトから除外するかを決める。
交渉術とは、交渉によって有利な結果を勝ちとるための能力やテクニックです。これらの多くはソフトスキル、つまり他人とのやりとりに役立つ対人スキルです。それは、交渉では相手への共感力とコミュニケーション力が決め手となるためです。交渉をうまく運ぶには、以下を行うことが重要になります。
関係者を説得する。
全員のニーズを理解する。
ラポールを構築する。
自分の要求を明確に伝える。
交渉術は、交渉の事前準備をするテクニックと、交渉中に繰り出す技の 2 つに分けることができます。ここではタイプごとに分けてご紹介します。
交渉というだけで尻込みしてしまうのに、何が来るか予想がつかなければなおさらです。相手の出方を正確に予測することはできなくても、こちらのアプローチの方法を計画し、交渉を成功させるために必要な情報を確実に用意しておくことが重要です。
では交渉の事前準備のコツを見ていきましょう。
具体的な目標があれば、それを目安に交渉を進められるので、自分の主張が曖昧になることも、いつ交渉の席を立つべきか迷うこともありません。交渉の目標を決めるには、次の点について考えてみましょう。
最も望ましい結論は何か?交渉の目標を高めに設定すると、希望している結果が得られる可能性が高まります。常識の範囲で期待できる最も望ましい結果を考えましょう。たとえば、仕事の待遇について交渉するなら、あなたの役職や経験で望める最高レベルの報酬額を目標にします。
自分が納得できる最低条件は?交渉には通常、少々の駆け引きが含まれるため、最も望ましいシナリオになる可能性は低いと考えておきます。とはいえ、受け入れられる最低ラインを決めておき、交渉を中断すべきタイミングを知っておくことも重要です。たとえば、業者と新しい IT ソフトウェアのコストについて交渉する際には、いくらまでなら払うつもりか、はっきり決めておきましょう。
交渉が不調に終わったらどうするか?すべての交渉が成功するとは限りません。そこで、交渉が合意に至らなかった場合の次善の選択肢を決めておきます。これを BANTA (不調時対策案) と呼びます。BANTA があれば、次にとれる手段がわかっているため、交渉を受け入れるべきかどうかを判断できます。たとえば、自分の車を友人に 130 万円で売ろうとしているとしましょう。たとえ交渉がうまくいかなくても、その車をディーラーに下取りに出せば、新車の値段を 80 万円割引いてもらえます。これがあなたの BANTA です。この BANTA に基づけば、友人に売る値段を 80 万円より安くするべきではないことがわかります。
どの切り口で交渉に臨むかは、交渉の戦略とも言い換えられます。それは交渉に入るための足掛かりであり、相手を説得して取引を成立させる切り札でもあります。前もって切り口を選び、話す内容を準備しましょう。これで相手の出方に単に反応するのではなく、自分の狙いに沿って交渉を進められます。
経営陣を説得して、ウェブサイトのインフラストラクチャに関するプロジェクトの資金獲得を目指している場合を想定しましょう。この交渉の切り口として考えられるのは、インフラストラクチャの改善がもたらすコストカットというメリットです。ウェブサイトの構築方法を見直すことによって、バグを防止し、バグ修正にかかる時間やコストを削減できることを強調します。
記事: 戦略と戦術の違いとは?交渉スタイルとは、交渉中の話し方や振る舞い方です。自分のスタイルを知れば、相手があなたの態度をどう見ているかを理解する手がかりになります。さらに、その観点から交渉のパフォーマンスを改善できます。
自分の交渉スタイルを知るには、これまでの交渉で自分がどう振舞ってきたかを振り返ります。あなたは普段、希望を伝えるのをためらうほうですか?それとも押しが強すぎるタイプですか?目の前の利益に惹かれてしまいがちですか?逆に、未知の落とし穴が気になりすぎるほうですか?ここで重要なのは、自分に正直になることです。完璧な交渉人など存在しません。自分の問題点を把握して、コミュニケーションスキルを高める対策を取りましょう。たとえば、気が弱い人は自己主張するための訓練をする、強引すぎるタイプならアクティブリスニングの練習をするといったことが考えられます。
交渉相手について知識があれば、交渉のテーブルに着いたとき、ずっと余裕を持てます。初対面の相手なら、どういう人物なのか、何に関心があるのか、相手にとって譲れない点は何かといったことを事前にリサーチしておきましょう。LinkedIn や Glassdoor を簡単にチェックしたり、Google で検索したりするだけでも構いません。たとえば、仕事の待遇について交渉するなら、事前にその会社の給与水準を調べましょう。
同様に、交渉相手との関係性を理解しておくことも重要です。特に今後、よい関係を築いていきたい、あるいは維持したい場合、これが交渉戦術の土台になります。
次のようなポイントについて考えておきましょう。
わかっている範囲で、相手方が交渉の席で持ち出す材料は何か?相手にとって交渉で譲れないものは何か?この交渉で相手が得るもの、失うものは何か?
以前にこの相手と協力したことがあれば、これまでの交渉の具合はどうだったか?
今後、相手とどのような関係を築きたいか?
この交渉で最も影響力を持っているのは誰か?また、そのことが交渉のプロセスにどう影響するか?
相手の立場から見て、どんな結果が最も有利か?また、その理由は?
交渉では焦りが生じやすく、急いで結論を出さなければ有利な条件を逃してしまう、と不安になりがちです。しかし、プレッシャーを感じて結論を急ぐと、希望の条件に合わなくても同意してしまう可能性が高くなります。
交渉の前に、いつまでに合意する必要があるのか、あるいは妥協点を見つけなければならないのかを書き出しましょう。これで意思決定プロセスにおける時間に関するプレッシャーをある程度軽減できるので、落ち着いて納得のいく内容で結論を出すことができます。
たとえば、ある IT 契約の条件について交渉しているとします。あなたの会社は、今月末までにエージェンシーを見つける必要がありますが、交渉が月初や月の中旬に行われるなら、すぐに合意に至る必要はありません。話し合いを中断して、必要に応じてチームと相談する余裕は十分あります。
記事: 7 つの簡単なステップでプロジェクトタイムラインを作成する方法事前準備は終わりました。いよいよ交渉を行い、取引を成立させましょう。実際に、オンライン会議や交渉のテーブルで応用できるスキルや戦術をご紹介します。
交渉では、相手を尊重することがよい結果に結びつきます。敬意を示すことで信頼とラポールが生まれ、あなたが相手の立場に配慮しているというシグナルを送ることができます。敬意を持って接することで、相手もまた敬意を返すようになり、あなたの提案に耳を傾けやすくなります。
次に挙げるのは、交渉の場で敬意を示す方法の例です。
アクティブリスニングを実践して、相手の立場を理解する。
視線を合わせたり、うなずいたりして聞いていることを示すなど、非言語コミュニケーションに注意を払う。
心の知能 (EQ) を発揮して、交渉相手を理解し、共感を示す。
自己紹介し、相手の状況を尋ねることで、ラポールを形成する。
交渉相手と問題を切り離す。この交渉の場を離れれば、相手も悩みや経験を抱えた一人の人間であることを忘れない。
質問することで、次の 3 つの大きなメリットが得られます。
相手の提案について理解が深まる。
決め手に欠ける妥協案では納得しないことを示せる。
相手が交渉を成立させたい理由を引き出せる。
最後の一つは難しいのですが、成功すれば大きな効果があります。適切な質問をすることで、相手はあなたと協力したい理由を思い出し、合意に前向きになる可能性があるためです。
たとえば、ベンダーと契約してチームで使う解析ソフトウェアを購入する場合、「ほかにも解析ツールはいろいろありますが、御社の製品はどんな点が競合他社とは違うのですか?」といった質問をすれば、相手の意欲を掻き立てられます。この質問によって、ベンダーにライバルのことを思い出させ、あなたとの取引を勝ち取るためのやる気を引き出すことができます。
どんな交渉でも、一方は熱心で、一方は懐疑的なものです。あまり前のめりな様子を見せないことは、交渉では強みになるので、それを目指すのがコツです。あなたが消極的だと、相手はあなたに向かって自分の提案をプレゼンするようなものなので、あなたを説得するために譲歩する可能性が高くなるでしょう。
本音は前向きだったとしても、そうでもない様子を見せることによって、相手は熱心な側に回ります。その方法には次のようなものがあります。
ボディランゲージを使う。交渉に熱心な側は、緊張して椅子から身を乗り出していることが多いものです。そこで、テーブルから身体を離し、ゆったり構えるようにしましょう。オンライン会議なら、肩の力を抜いて、椅子にもたれるといいでしょう。
ゆっくりと穏やかに話す。前のめりな人は、早口になり、声が大きくなりがちです。その逆を心がければ、あなたは交渉を成立させることにそこまで熱心ではないという印象を相手に与えます。
仮定の表現を使う。あなたが 100% コミットしているわけではないことを示すには仮定の表現を使います。たとえば、「我々が X をするとき」ではなく「もし我々が X をするとしたら」と言いましょう。
堂々と主張する。明確に主張することで、自分の要求に合わない条件は飲まないことを示せます。大声を出したり、攻撃的になったりする必要はありません。冷静に、自信を持って自分の意見を主張するだけで事足ります。
席を立つ。可能なら、話し合いを中断して、あなたは急いでいないことを見せましょう。これで相手は焦りだし、通常ならしないような譲歩をする可能性があります。
憶測は、どんな簡単な交渉でも複雑にしてしまいます。すべてをシンプルにするためには、事実を基に話を進めることが重要です。相手の意図や、現状について相手がどう考え、感じているか、あるいは今後の展開などについて、確かな裏付けもなく推し量ることは避けてください。想像をめぐらすことは人間にとって当たり前のことですが、少し意識的に自分を振り返るだけで、地に足をつけて、シンプルに交渉を行えます。
記事: 推論のはしご: 当て推量を避け、よりよい意思決定をする方法最後に、成功する交渉のコツはコラボレーションであることを覚えておきましょう。あなたの目標は、欲しいものをすべて手に入れ、相手に何も与えないことではありません。むしろ相手と協力して、全員にとって望ましい結論を見出すことです。その考え方を基に、交渉の「駆け引き」をしながら選択肢を検証するには、ここで紹介する問題解決のテクニックを活用できます。
“パイを大きくする” — こちらが提示する条件を広げて、相手のニーズを満たす。
当事者全員にとってウィンウィンな別の解決策を提案する。
交換条件を出す — 相手の優先事項を尊重することに同意する。
相手が払った犠牲を認め、埋め合わせを提示する。
一致点を見つける — 相手と自分との共通の価値観を見つける。
交渉はコラボレーションの重要な要素です。うまくいかないことをやめたり、古い問題に対する新しい解決策を見つけたりするには、反対意見が欠かせません。つまり、自信を持って交渉するために必要なスキルがあれば、チームワークのレベルを引き上げることにつながるのです。
コラボレーションを改善する方法をほかにもお探しなら、この記事をお読みください。プロジェクト管理ソフトウェアを使って、どこにいてもチームがつながりを維持する方法をご紹介しています。
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