複数の作業をこなす「マルチタスク」という概念。しかし実際には、マルチタスクは脳を無駄に働かせてしまい、その結果仕事の生産性低下を引き起こす原因となります。そこでこの記事では、マルチタスクに関する通念と、生産性を向上するために効果的な戦略について解説します。
更新: この記事は、マルチタスクとシングルタスクの比較に関する記述を含めて 2022年 7月に改訂されました。
会議中にメールをチェックしたり、プレゼン資料を作成しながら電話のスケジュールを立てたりするなど、私たちはさまざまな場面で複数の作業「マルチタスク」を行っています。この「一度に 2 つのタスクを行う」という行為は、実は単にその 2 つのタスクをすばやく切り替えているだけの行為です。そしてタスクを切り替えるたびに、脳は無駄に働くことになり、ミスをしたり、生産性が低下したりする可能性が高まってしまうのです。
マルチタスクは “幻想” だとしても、多くの人はそうせざるを得ない状況を経験しています。Asana のリサーチによると、ほぼ 4 人に 3 人 (72%) の従業員が、1 日の内でマルチタスクのプレッシャーを感じることがわかりました。そうした経験がある人のために、この記事では、マルチタスクの科学的背景を検証し、生産性を高め仕事の効率化を図るための 6 つのヒントを紹介します。
記事: 分散ワークの世界で燃え尽き症候群を乗り越える方法もともとマルチタスクとは、コンピューターに備わっている「複数の情報処理作業を実行するシステム」を指す用語でした。ビジネスシーンにおいては、複数のタスクを同時進行することとして知られているかもしれません。しかしこれは 2 つ以上の作業を同時並行で進めているわけではなく、実際には電光石火の早業で切り替えているだけにすぎません。人間の脳の回路は、一度に 2 つ以上のことができるようには配線されていないからです。そしてこの「タスクスイッチング」というプロセスは、本人が気づかなくても、実は貴重な脳のパワーを消費しています。
マルチタスクの対義語にシングルタスク (あるいはモノタスク) という言葉があります。シングルタスクとは、ひとつの作業に集中すること、つまり一点集中型のスタイルです。いくつもの作業を矢継ぎ早に切り替えながらこなすのではなく、その日やろうと決めたことに注意を向ける。一度に 1 つのタスクだけに集中することで、フロー状態に入ることができるわけです。フロー状態に到達する方法はさまざまですが、そのメリットも多岐にわたります。
記事: 仕事でフロー状態を活用する 6 つのコツAsana で生産性を高めるAsana については『1 分でわかる Asana』動画をご覧ください。
さて、マルチタスクには “神話” がいくつか存在します。捉え方によってはマルチタスクのメリットとも言えるものもあるかもしれませんが、その神話を信じてしまうと逆に業務効率を下げてしまう可能性もあります。このセクションでは、それぞれを分析して科学的な真実を明らかにしていきます。
一度に 2 つのことができれば素晴らしいですが、複数の研究によって、人間の脳は、一度に 2 つ以上のことに十分な注意を向けられないことがわかっています。事実、脳は、シングルタスクに適した進化を遂げてきました。つまり、一度に 1 つのことしか考えられないのです。
マルチタスクをしているつもりでも、実際には 2 つのタスクを驚くほどのスピードで切り替えているだけです。2 つの作業を切り替えるたびに、スイッチコストが発生します。ミスが増えるだけでなく、ほぼどんな場合でも、2 つのタスクを同時に完了させるためにより多くの時間がかかります。
マルチタスクは幻想だと聞いたことがあっても、タスクの切り替えの負担がいかに大きいか、なかなかピンとこないものです。マルチタスクをしばらく続けてきた人は、自分はそのスキルを身に付けたように感じるでしょう。日常の一部になっていて、その悪影響に気づくことすらできていないかもしれません。
多くの人が、自分はマルチタスクができると感じています。しかし、マルチタスク能力を持っている自覚があるかどうかと、実際にマルチタスクを効果的にこなせているかどうかには、ほぼ相関性がないことが研究で明らかになっています。複数の仕事を曲芸のように見事にこなしているつもりになっていても、現実はそうではないのです。
たとえ理想的な状況でなくても、2 つのことを一度に行えば、より多くのことを達成できるのではないか?そう思うかもしれません。
ところが、その逆なのです。David Meyer 博士の研究では、コンテキストの切り替えで起きる思考停止はたとえ一瞬でも、生産的な時間の実に 40% にあたるコストを発生させることがわかっています。タスクの切り替えは脳に負担をかけるため、マルチタスクは仕事を効率的かつ効果的に達成する能力に悪影響を及ぼすのです。
記事: ビジネスにおける効率と効果の違い: チームに両方が必要な理由マルチタスクには 2 種類、あるいは 3 種類あると聞いたことがあるかもしれません。タスクの切り替えとコンテキストの切り替え、そしていわゆる「注意残余」とを区別する考え方です。しかし、これらはマルチタスクの種類ではありません。これらの要素との因果関係によって、非効率的なマルチタスクに陥るのです。
これを分析すると、次のようになります:
マルチタスクとは、2 つか 3 つのことを同時に行おうとする試みである。
コンテキストの切り替え (タスクスイッチングまたはタスクの切り替えとも呼ぶ) は、マルチタスクの際に、作業を次々と切り替えることを指す。
多くの作業を非常に短時間で行うと、注意残余の状態になる。これは、次の作業に移った後も、前の作業について考え続けることを言う。
個人としての生活でマルチタスクを避けていても、職場ではマルチタスクをしている人もいます。Asana のリサーチによると、平均的なナレッジワーカーは、1 日に 10 種類のアプリを最大 25 回も切り替えています。さらに、労働者の 4 分の 1 (27%) が、アプリの切り替え時に作業のミスやメッセージの見落としがあると答え、26% がアプリが多すぎると、個人の効率が下がると答えています。
2 つのテクノロジーを切り替えることには、「メディア・マルチタスキング」という名前さえ付いています。メディア・マルチタスキングは、マルチタスクの従来のマイナス面だけでなく、長期記憶と作業記憶に悪影響を与えることもわかっています。
お気に入りのツールを 1 か所で連携マルチタスクは生産性を下げるだけでなく、精神の健康をも蝕みます。Asana のリサーチによると、昨年は 10 人に 7 人 (71%) のナレッジワーカーが、少なくとも 1 回は燃え尽き症候群を経験しました。燃え尽き症候群とマルチタスクは切っても切れない関係にあります。同じ調査で、スマートフォンが手元にないと不安になる人の 3 分の 2 (65%) が、燃え尽き症候群を経験したと報告しています。一方、スマートフォンが手元になくても平気な人々では、燃え尽き症候群を経験した割合は 45% に留まりました。
記事: 働き過ぎの人やチーム必見、仕事とプライベートのバランスを取り戻すための戦略マルチタスクの “幻想” を追ってしまっては、バーンアウトやキャパシティオーバーを招いてしまうかもしれません。ではマルチタスクに頼らず仕事の生産性と効率性を上げるにはどうしたらいいのでしょうか?ここでは、タスク管理に関する 6 つのコツをご紹介します。それぞれのポイントを押さえて、今後のマネジメントに役立ててみてください。
時間区切り (タイムボクシング)とは、集中を助け、仕事をすばやく達成するための目標指向型の時間管理戦略です。この手法では、作業の所要時間について予測を立てて、タイムボックス (時間区切り) を作成します。各作業には、それ専用のタイムボックスを設定し、そのタイムボックス中は該当する作業のみに確実に集中するようにします。タイムボックスが開始したら、そのボックスが終了するまで、すべての注意力を作業に向けます。
時間区切りの手法では、必ず作業を完全に終えてから新しい作業に切り替えます。カリフォルニア大学バークレー校 Becoming Superhuman 研究所の生産性に関する研究では、「フォーカス・スプリント (アプリの切り替えや受信トレイのチェックの必要がない時間帯)」を設けたチームのメンバーは、生産性が 43% も上がったことが報告されています。
記事: 時間区切りのテクニック: 目標指向型の時間管理戦略タイムブロックは、タイムボックスと似ていますが、一つひとつの作業にタイムボックスを割り当てる代わりに、類似の作業をまとめ、1 つのタイムブロックですべてを完了させる手法です。タイムブロックを使うと、通知などの気が散る要因を排除して、集中力を維持することができます。これは、メールの問題の解消に特に有効です。Asana のリサーチでは、回答者 10 人中 8 人 (80%) が、受信トレイなどのコミュニケーションアプリを開いた状態で作業をしています。しかし、これでは通知を受け取るたびに、集中が途切れることになります。
一方、タイムブロックでは、午前中にメールチェックの時間を 1 時間設定し、さらに終業の直前に設けた 1 時間のタイムブロックで、仕事中に来ていたメールに返信します。こうすることで、1 日のそれ以外の時間は、ひっきりなしに来るメールの通知に気を取られずに仕事に集中することができます。
記事: Asana を使ってマーケティングチームとセールスチームの照準を揃える GuruAsana を無料で試す時間区切りやタイムブロックをカレンダーに導入しなくても、サイレント機能を使うことで、集中時間を維持できます。これは自分の意図する通りに仕事に集中する効果的な方法です。仕事を完了しなければならないとわかっているのに、メールやチャットの鳴りやまない通知に気を取られてしまうなら、サイレント機能を使って、フロー状態を維持しましょう。
サイレント機能の活用は PC だけに限りません。このテクニックを最大限に活かすには、携帯電話の通知も必ずオフにしておくことをおすすめします。
記事: Asana を使用してクライアント維持率を向上させている Stride休憩を取ることで効率を上げる方法を探しているなら、ポモドーロテクニックが適しているかもしれません。25 分間の作業セッションである「ポモドーロ」の後、5 分間の休憩を取ります。ポモドーロを 4 回繰り返したら、20 ~ 30 分の長めの休憩を取ります。短時間で集中して作業することにより、モチベーションを維持しながら生産性を高められます。
ポモドーロでは高い集中レベルを保つため、マルチタスクを避け、1 つのことに集中しやすくなります。ポモドーロの休憩は、スマートフォンや SNS をチェックする、軽食をとりに行く、メールの返信をするといったことに使いましょう。
記事: 生産性向上のためにできること: 職場で実施できる取り組みとヒントを紹介どのタスクも同じくらい重要に見えると、マルチタスクに陥りやすくなります。ブログの投稿記事を準備したり、新しい画像をデザインしたりしていても、新たなリクエストが入ると、すぐにそちらを始めたくなるかもしれません。
各タスクの相対的な重要性を理解しておくと、優先順位がつけやすくなります。優先順位によって、入ってきたリクエストの重要度が今取り組んでいる作業よりも低ければ、マルチタスクの誘惑を退けて、今の作業に集中できます。逆に、新しいリクエストが、今取り組んでいるタスクよりも重要なら、これまでの作業を中断して、新しいタスクに注意を向けます。
記事: タスクに優先順位を付けて、仕事時間を管理する方法Asana でタスクの管理と優先度設定をするMIT とは「最重要タスク (most important task)」の略で、優先順位の活用をワンランクアップさせたテクニックです。1 日で全部を終えることは無理なのに、優先度の高い仕事が多いと、プレッシャーを感じ、すべてを何とかしようという気持ちになります。しかし、MIT を設定すれば、その日の最も重要なタスクが明確になり、それをやり遂げることができます。そうしたタスクを達成すれば、罪悪感やストレスなく、気持ちよく 1 日を終えられます。
カリフォルニア大学バークレー校の認知神経科学者である Sahar Yousef 博士の最近の研究によると、MIT は先延ばしの癖を劇的に改善し、燃え尽き症候群の発生を減らすことができるそうです。Yousef 博士は、ある組織全体を対象に、毎日 MIT を設定するという 3 週間のチャレンジを立ち上げました。Yousef 博士の組織は毎日 MIT を設定することを忠実に守り、Slack でそうした MIT を同僚と共有することによって、CEO から入ったばかりのインターンまで、全社で個人の生産性が 28% 上昇し、燃え尽き症候群が 42% 低下しました。
マルチタスクとは何か、その “神話” の真実とシングルタスクを基本とした仕事の生産性向上のコツをご紹介しました。実際のところ、マルチタスクにはデメリットが多く伴います。タスク切り替えのために脳のエネルギーを費やすのではなく、一点集中型スタイルで仕事に臨み、成果を上げましょう。
また、さらに効率的に業務を実行するためには、タスク管理ツールの導入も検討してみましょう。適切なツールを使えば、To-do リストの作成やタスクに優先度を付ける作業などがスムーズに行えます。Asana なら、タスクやプロジェクトの見える化やチーム内コミュニケーションをサポートするためにも最適です。チーム別、用途別で使えるテンプレートも揃っているので、利用しましょう。
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