作成の手間暇や形式の違いにより煩雑になっていた紙やスプレッドシートなどの文書による情報共有スタイルを一新。手軽な投稿や意思表示、進捗も見える化した環境を用意することで業務をシンプル化でき、コラボレーションも活発になった
歴代担当者の知見とノウハウが詰まった定型化された手順による繰り返し業務をテンプレート化。それを公開することで、知識と業務の継承を容易にするとともに、誰もが同等の品質で業務遂行でき、属人的なやり方やミスの削減が実現できた
仕事量や締め切り超過を明確に可視化、タスクの再分配や期限の調整が容易に行えるようになり、生産性が向上。特に活用が進んだチームでは、新しい働き方により残業時間が35%削減できた
お客様の立場に立った「価値ある製品」づくりをモットーに、四輪車、二輪車、船外機、そして電動車いすなどを展開するスズキ株式会社。
同社では生産の現場において「小・少・軽・短・美」を掲げ、ムダを省いた効率的で高品質なものづくりを目指しています。より「小さく」「少なく」「軽く」「短く」「美しく」という意味が込められたこの言葉は、2023年1月に発表された「2030年度に向けた成長戦略」でも触れられ、DXを進めつつカーボンニュートラルを達成する、という重要な指針とも合わせて全社的に浸透しています。
コロナ禍によって自動車業界にも大きな変化が訪れ、当初リモートワークを導入していなかったスズキにもDXの推進が喫緊の課題となりました。働き方の変革を目指すなかで、業務の効率化と情報共有によって仕事をシンプルにできるツールとして導入されたのは、ワークマネジメントツールの「Asana」です。日々の業務において、Asana活用の高い効果を実感しているという同社海外四輪営業部門のメンバーとIT部門のメンバーに、導入の経緯やその効果をお聞きしました。
2020年に創立100周年を迎えたスズキ。これまで織機から二輪車、自動車、船外機や電動車いすと多岐にわたる製品展開を行い、持続的な成長を遂げてきました。近年ではカーボンニュートラルを目指す取り組みや電動化の推進、品質の向上などを経営のメインテーマとして掲げ、電動化技術の展開、品質向上のためのさまざまな施策、SDGsへの貢献などに取り組んでいます。
「DX推進のアクションプランとして、『仕事をシンプルに』『ムダな仕事を減らそう』『みんなが見えるようにしよう』というものがあり、Asanaはこれらにマッチすると考えました」と語るのは、中南米地域のスズキの四輪営業を担当しているグループマネージャーの廣岡 直樹 氏です。
廣岡氏自身、コロナ禍で在宅勤務が必須になると、リモート下でも部下の状況や進捗を把握するため、毎日部下に業務報告を依頼していました。しかしその一方で、毎日の業務を逐一報告させること自体が非効率で、信頼関係や生産性にも悪影響をおよぼすと考えていました。そんなとき、Asanaの存在を知った廣岡氏は製品を調べるうち、これなら業務の見える化もでき、効率化にもつながると判断し、まずは廣岡氏のチーム10人で3カ月のトライアルを開始しました。トライアルでその効果が認められると、次に30人規模で半年、さらにもう半年後に100人と、段階的に規模を拡大していきました。
海外事業業務部でDXやBPRを担当している仲江川 容亮 氏は「当初は全社で導入していた他のツールの展開や拡張を検討していましたが、より詳細で正確かつユーザーフレンドリーなタスク管理ができないかと考えていました。廣岡からAsana導入の提案を受け、これは求めていた理想的なツールだと感じ、そちらにシフトすることにしました。廣岡のグループがフロントランナーとなり、段階的に他のグループへの導入を進めました」と振り返ります。
ITシステム部の鈴木 祐一 氏は「トップマネジメントやIT部門が率先してAsanaの利用を勧めていたわけではありませんが、Asanaはツールとしての自由度が高いこともあり、有効な使い方を模索するリーダーのもとで、自然と活用が広がっていきました」と、ユーザー増加の背景を語りました。
手軽でシンプルな使い勝手のAsanaは、DX推進の合言葉でもあった『仕事をシンプルに』、そして社内にもともと根付いていた『小・少・軽・短・美』の考え方とも相まって、スズキ社内で着実に広がりを見せていきました。
Asanaはスズキのシリコンバレー拠点からの紹介を受け、2021年4月よりスズキで利用を開始、2023年10月現在、社内の15本部で700以上のアカウントがアクティブに利用されています。そのうち部署全体で活用が進んでいるのが海外四輪営業部門です。スズキの製品は、世界208の国・地域で販売しており、海外四輪営業では取引のある国の販売状況を管理しています。
その海外四輪営業でのAsana使用状況と効果を測るため、導入の10ヶ月後に実施した調査では、回答者のうち66%は毎日、90%以上が週に複数回使用しており、利用者全体の70%が効果を認めています。実感している効果は、仕事の可視化、やり残しの防止、スケジュール管理、業務進捗の把握など多岐にわたります。データを見ると、使用頻度と効果を感じる度合いが相関関係にあり、週に複数回使用するユーザーでは実に約9割がその効果を実感していました。また、部門や課のリーダーが積極的に利用することで、部下も効果を感じやすくなる傾向が見られました。
廣岡氏は、社内での導入を広げていくにあたり、Asana Japanチームにもトレーニングのサポートを依頼し、各課に推進リーダーも立てました。能動的に業務改善を図ろうとしているチームでは自然と活用が進む一方で、受動的にアカウントを与えられるチームでは積極的な活用に至らない傾向が見られたためです。そこで各課から若手社員を推進リーダーとして選出し、活用方法の共有や意見交換を行う場を毎月設けて活用促進に繋げました。リーダーが課内でAsanaの使用を推進していく形で定着化を図り、活用が遅れている課や転入者向けに個別補講などのフォローアップも行なっています。
この取り組みについて廣岡氏は次のように語ります。
「これらの活動を通じて感じたのは、DXはトップダウンだけでは進まないという事です。もちろんAsanaをトライアルで活用できたのは経営陣が先頭に立ってDX推進の旗振りをしたからですが、ツールを活用して効果を出せるかどうかは、実際にツールを使う社員一人ひとりの行動にかかっています。だからこそ、トップダウンだけでなくボトムアップからの取り組みも必要と考え、デジタルに親和性が高い若手社員の力を借りて各課で活用促進が進む仕組みを作りました」
いまではAsanaに対する経営層からの注目度も高く、残業の軽減といった効果についても認められていると言います。仲江川氏は「上層部からは定量的な効果に関して知りたいとの要望がありました。トップマネジメントもAsana上で海外営業チーム内に入ってもらえば、新入社員の業務内容まで確認できる状態になります。これによってワークロードも一目で確認できるようになり、『どの課が忙しいのか』という質問を受けることも減るでしょう。一方で社員は、トップマネジメントがAsana上で状況を常に確認していると意識することで、さらなる利用促進にもつながると考えています」と期待を述べました。
廣岡氏は自身の業務をAsanaの「マイタスク」機能で管理し、部下への仕事の割り振りや進捗管理にも活用しています。多くのプロジェクトが同時進行しているので、プロジェクト単位でなく、人単位での業務の進捗やワークロードによって負荷をチェックしています。
さらにプロジェクトテンプレートを活用し、特定の業務の標準化にも努めています。例えば代理店契約の締結や解約、新人の受け入れ、出張前の準備、海外からの来客対応など、手順が決まっている業務はすべてテンプレートにして全体に公開しています。廣岡氏は「今後もプロジェクトを通じて知見や手順をテンプレート化することで、社内リソースの有効活用とノウハウの共有、抜け漏れの防止を図りたいと考えています」と語りました。
仲江川氏は担当プロジェクトの管理にAsanaを利用しています。Asanaにタスクを登録するだけで、チーム内で公開・共有されるため、他のメンバーのタスク内容や工数を把握でき、ムダを削減することができます。仲江川氏は「週次の報告に要する時間が削減され、実感としても業務がかなり楽になったと感じています。以前はオンラインでも個別の文書を作成や更新して報告する必要がありましたが、Asanaで報告する場合にはそうした手間を省けました」と効果を語りました。
また仲江川氏はコメントに対してすぐに反応を示せる「いいね」機能は重宝していると言います。「関連するコメントがタスクごとに整理されているので、情報の流れも捉えやすくコミュニケーションもスムーズです。メールだとわざわざ文章を作成して返事をしなければならないことも、『いいね』を押すだけなら気軽にすぐ意思表示できます」(仲江川氏)
IT部門としてシステム管理する立場の鈴木氏は、グループ内での進捗報告にAsanaを使うことで、かつては報告書の作成や書類・メールの検索にかかっていた時間が削減でき、生産性の向上を実感していると言います。
今後のさらなるAsana活用について、仲江川氏はBIツールとAsanaの連携を挙げます。「近いうちに、メンバーの『勤務時間』と『タスクの登録数』といった異なるデータを組み合わせて分析ができる環境を整えたいと思っています。例えばタスクを多く登録している人であればあるほど残業時間が少ない、といった傾向が見えるとより具体的な効果分析や改善が可能になります。今はまだサンプル数が少ないため十分な傾向分析はできませんが、今後さらにユーザーやタスク登録数を増やしてサンプル数が増えれば、より効果的な活用方法が見えてくると思います」と語りました。
鈴木氏はIT部門の立場として、提供したツールの業務への定着化を課題としているといいます。「Asanaは自由度が非常に高く、多くの業務形態に適合すると考えています。しかしさまざまな業務がある中で、『どのようにAsanaを使えば効果的か』といった定形の最適解を提示することは難しく、実際には活用を進めるリーダーの手腕に依存しています。単に提供するだけでツールが定着するわけではありません。活用事例や具体的な使い方をアピールする仕掛けも一緒に提供することが必要だと感じています」(鈴木氏)
廣岡氏は、自身のチームの残業時間をAsana導入前後で比較したところ、35%の減少が見られたと言います。今後は会社として導入しているすべてのユーザーに対して、全体的な効果を測定し定量化していきたいと考えています。「現時点はまだまだ自分の業務だけを記録して終わるような利用方法をしている人もいます。上司から具体的なタスクを割り当てられた後に、チームでコミュニケーションが適切に行われているかを可視化して評価できる体制が必要です。指標を決めて効果を測定し、より改善に向けて取り組んでいきたいです」と意欲を語りました。
「小・少・軽・短・美」のスローガンのもと、シンプルな仕事のやり方を追求するスズキでは、ムダを省いたスマートな働き方を実現するAsanaの活用がますます広がりを見せています。より多くのユーザーがAsanaを通じてシンプルに効率よく働けることが、これから先100年継続していくスズキの成長を支えるカギのひとつとなりそうです。